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木枯らしリョウマはぐれ旅  作者: 謙虚なサークル
39/67

異形の街と騎士団①

「こいつは素材として頂いておくか」


 ゴリアテの持っていた紅爪王を凩にかざすと、光と共に吸収されていく。


 凩レベル39

 +火属性付与

 +多重斬撃

 +熱の刃


 一気に倍近く武器のレベルが上がった。

 それだけでなく、スキルも3つ増えている。

 流石にいい剣を持っているなとリョウマは口笛を鳴らす。

 上機嫌で木枯らしを鞘に納めると、地上へと戻るのだった。


 辺りは炎で焼き尽くされているものの、火は既に消えていた。

 穴の前では竜が待っていた。


「お待たせだったな。ちゃんと殺ってきたぜ」

「ふむ、ご苦労であった」


 血塗れのリョウマを見て、竜は頷く。

 偉そうなのは竜の気質なのだろう。


「さて、用も済んだし帰るかい」

「そうであるな」


 リョウマが竜の背にまたがる。

 竜はごう、と翼を羽ばたかせ、空に舞う。


「さて、これにて一件落着かな?」

「そうだといいんだがねぇ」


 あの男……ゴリアテとシュナイゼルとの繋がりは、結局わからずじまいであった。

 それでも表立って仕掛けて来ることはなかろう。

 少なくとも、しばらくのうちは。


「……いい風だ」


 流れる風を感じながら、リョウマは心地よさに目を閉じる。

 その日は、宴だった。

 野盗の襲撃に怯える事もなくなり、民衆たちも今宵ばかりは大いに飲み明かす。

 酒に強いドワーフらも、ほのかな顔を赤くしていた。


「よう、飲んでるかい」

「リョウマちゃん、お酌してくれるのかしら?」

「散々エリザにして貰ってたじゃねぇか」


 中でもアネギアスの酒量は他のドワーフと比にならぬほどだ。

 まさしくウワバミの如し。リョウマは他人事ながら、この街の酒蔵が心配になった。

 ふと、アネギアスの顔が憂いを帯びる。


「何だか、酔えなくてね……」


 抱えていた樽を地面に置くと、アネギアスは椅子にもたれ掛かる。

 ちなみにエリザはハチェに連れられ、屋敷でおねむである。

 疲れたのか、雰囲気になったのかはわからない。


「あの野盗、シュナちゃんと繋がっていたんだって?」

「恐らくな」


 恐らくあの野盗の親玉は、領主シュナイゼルの命で動いていたのだろう。

 それを悟られぬよう自害して果てたが、「そうだ」と言ったも同じである。

 しかし奴は、証拠となるものを何一つとして残さなかった。

 仮に問い詰めてもしらを切られるのが関の山だろう。

 最後まで、大した奴だったとリョウマは舌打ちをした。


「まぁシュナイゼルの目論見は失敗に終わったんだ。これ以上つついて来る事もないだろうさ」

「だといいけど……」


 そう言うとアネギアスはまた、酒樽を掴みぐびぐびと飲み干す。


「ぶはぁ、飲まなきゃやってられないわよ……」

「……程々にしとけよな」

「大丈夫、酔ってないでしょ?」


 アネギアスの見せる巨大な酒樽は、見事に空になっていた。

 内容量はアネギアスの体積を軽く超えている気がしたが、リョウマは深く考えない事にした。


 翌日、リョウマとエリザは街を発つ。

 仕事は終えたし、これ以上滞在する意味もない。


「じゃあよ。楽しかったぜ」

「えぇ、私たちもよ。……エリザちゃんも元気でね」


 アネギアスは二人の頭を大きな手でグリグリと撫でる。


「これ、持ってって下さいなー」


 ハチェが渡してきたのは「オコノミヤキ」である。

 更に魔改造されているのか、香ばしいチーズの匂いが薫る。

 ちなみに、この「オコノミヤキ」は後にピザと呼ばれ、この街の名物料理になるのだった。

 無論、この場の誰もそれを知ることはないのだが。


「ありがとう、ハチェさん!」

「帰りにでもいただくぜ」


 土産も受け取り、皆に見送られながらの出立。

 エリザは大きく手を振り、別れを惜しんでいた。


「またいつでも遊びにいらっしゃいな」

「近くを寄ることがあったらな」

「さよーーーならーーー!」


 エリザは小さくなっていく街を、何度も振り返るのだった。




「兄者が死んだ、だと?……嘘を言うなッ!」


 シュナイゼルは手にしていたグラスを報告に来た部下にぶちまけた。

 髪の毛からワインの滴り落ちながらも、部下は身じろぎ一つせず、頭を垂れ続ける。


「信じぬ……信じぬぞッ!」

「しかし、ライフリンクが切れているのは事実でして……」


 部下の持つ水晶は暗くなっている。

 本来であれば薄っすらと、ゴリアテの生命の色が灯っているにも関わらず、だ。


「ぐ……ぐぅぅぅぅーーっ!!あの化け物どもめーーッ!」


 怒りに震え、シュナイゼルは水晶を投げつけた。

 それでもなお、水晶は暗いままである。


「何か汚い手を使ったに違いない! そうでなくては、あの強くて賢い兄者が殺されるわけがない!」

「し、シュナイゼル様……?」

「そうだ! 許せるものか! 罪には罰を、悪は滅ぼされねばなるまいッ!」


 そう言うと、シュナイゼルは執務室から足早に出ていく。

 部下は慌ててそれを追う。


「お待ちくださいシュナイゼル様! 一体どうなさるおつもりで!?」

「あの街を滅ぼす、火をかけ、弓を射て、我が軍の総力をかけ、潰す!」

「な……考え直してください! ゴリアテ様も言っていたではないですか! 私に何かあったらすぐに手を引けと――――」

「貴様が兄者を語るのかッ!」


 シュナイゼルは衝動のままに剣を引き抜くと、部下を斬りつけた。

 鮮血が舞い、部下は倒れ、使用人たちは悲鳴を上げた。

 赤い絨毯が更に赤く、染まっていく。


「片づけておけ」


 そう言い残すと、シュナイゼルは馬舎へと足を向ける。

 馬舎では、修練を終えた騎士たちが馬の世話をしていた。

 いきなりのシュナイゼルの来訪に、皆、敬礼を返す。


「皆のもの! 聞いて欲しい!!」

「「「は! 何でありましょうか! シュナイゼル様」」」


 声を揃えて一様に、剣を掲げて一様に、騎士たちはシュナイゼルの方を向き直る。


「諸君らをここまでの精鋭に鍛え上げた我が兄、ゴリアテは死んだ! 殺されたのだ! シュニルの街の化け物に!」


 ざわり、と騎士たちに衝撃が走る。

 ゴリアテは普段、この騎士団の教育係をしている。

 人望もあり、何度も団長に推薦されたが、本人が断っていたのだ。

 裏で動くゴリアテとしては、顔が知れると動きにくくなるからである。

 現団長がそれを聞き、声を震わせる。


「あのゴリアテ様が……信じられません」

「卑怯な手を使ったのだ!街へ訪問した兄を、奴らは罠に嵌め、嬲り殺しにしたのだ……ッ!」


 あからさまな作り話。

 だがシュナイゼルは殆どそうだと確信していた。

 そしてその熱は、騎士達にも熱く伝わる。


「なんと……」「ゴリアテ様……」


 自然と黙祷を捧げる騎士たちを満足げに一瞥し、シュナイゼルは一層声を張り上げた。


「化け物をども討つ! 兄の仇だ、そのために力を貸してくれ!」


 応じるように、騎士たちは各々剣を掲げた。


「おおおおおっ!!」

「我らの力を見せつけてやろうではないか!」


 男たちの声が辺りに響く。

 今までは表立って攻撃することはなかったが、もはや容赦は不要である。

 化け物どもを根城ごと、跡形残らず滅ぼしてくれよう。

 兄の、ゴリアテの無念を晴らす。

 そう決意したシュナイゼルは、自らも準備に取り掛かるのだった。


「シュナイゼル様、出征の準備、整いましてございます!」

「うむ」


 数日の間にシュニルの街を攻める軍勢は整った。

 その数一千。

 また一つ落とすにしては、あまりに多勢である。

 だがシュナイゼルは、そうは思っていなかった。


(兄者が死んでしまうような現場だ……兄者ほど優秀ではない私には、何が起こるか想定出来まい。ならば念には念を入れなければ)


 そんなシュナイゼルの思いと裏腹に、騎士達は疑念を感じていた。

 街一つ落とす為だけに、貴重な兵を一千も。

 兵の運用には多くの金がかかる。

 食料も必要だ。

 騎士たちの中には農民の出も多くおり、戦のたびに徴収がある事を知っていた。

 無駄とも思えるシュナイゼルの行為。

 ともあれ、命令に逆らうわけにもいかない。

 それにあの街を手に入れれば領地が潤うのも事実である。


「征くぞ者共! 勝利をこの手に!」

「オオオオオオオオオ!!」


 様々な事情が渦巻く中、シュナイゼルは軍を率いシュニルの街へと向かうのだった。


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