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木枯らしリョウマはぐれ旅  作者: 謙虚なサークル
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冒険者と野盗③

「しっかし、お頭はいつも色んなこと考えるよなぁ」

「本当にすげーよ。こんな作戦、俺らじゃとても考えつかねぇ。流石お頭だ」

「オラはあの人について来て、本当に良かったべ」


 山を登りながら、野盗たちは先頭を行くお頭、ゴリアテを口々に褒め称えていた。

 この野盗たち、元は奴隷である。

 逃げたり捨てられたり……境遇は様々であるが共通していたのは燻り、食うにも困っていた事。


 そんな彼らをゴリアテはまとめ上げ、あっという間に野盗たちは組織としての強さを手に入れたのである。

 以来、彼らは食うに困ら事なく、人としてまともな生活を送れるようになったのだ。

 彼らは生き方を教えてくれたゴリアテに心酔していたのである。


(くく、阿呆どもが。あまりに上手くいきすぎて、拍子抜けだわ)


 思惑通り事が進んでいる事に、ゴリアテはほくそ笑む。

 困窮している者は少し手を差し伸べられただけで、簡単に心を開く。

 あとは金、武力、知力……あらゆる面での「力」を見せつけてやれば勝手に惚れ込み、喜んで命賭けで闘う兵士の完成だ。

 幼い頃より帝王の学問を修めてきたゴリアテは、それをよく知っていた。


「お頭ぁ! 大丈夫です! 奴はいません!」


 斥候に放っていた男が帰って来た。

 ちゃんと、生きて。

 つまりはゴリアテの目論見通り、事が運んでいる証である。

 ニヤリと笑うとゴリアテは、全員の方を振り返ると右腕を天に突き上げた。


「ヤロウども! あと一踏ん張りだ! この作戦が成ればあの街はお前らのモノだぞ! 安住の地は近い!」

「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」


 指揮高く、雄叫びを上げる野盗たち。

 安住の地、とは分かりやすい餌だ。

 長い間根無し草だった彼らに、この言葉は強く響く。


 山頂へと辿り着いた野盗たちは、ゴリアテの命令で辺りに散らばる。

 彼らの目的である、ある物を見つける為に。

 探索を始めて、一時間が経過していた。


(まだか……)


 ゴリアテは焦っていた。

 これは時間との勝負である。

 万が一間に合わなければ、全員揃って皆殺しだ。

 あまりノロノロしていると、ヤツが帰ってきてしまう。

 そろそろ時間切れか、ゴリアテが諦めかけた時、部下の一人が駆けてきた。


「あ、ありました! お頭!」

「本当か! よぉし、全員集まれ!」


 ゴリアテの号令で集まった野盗たちが目にしたのは、巨大な卵だった。

 卵の殻はあまりに鮮やかな緋色。

 野盗たちは美しさの中に、毒キノコのような危うさを感じていた。


 ――――これは竜の卵。

 竜は魔物の中でも最上格に位置する種族で、特に親子の愛が強い。

 雛や卵を傷つけられたり、盗まれたりすると親竜は怒り狂うのだ。

 そうやって滅びた国も幾つかある。

 昔話でも語られており、それを耳にした事がないものはいない。


 そして裏を返せば、そういう使い方も出来るという事。

 ゴリアテの作戦はまさしく、竜の卵をシュニルの街へ運び、親竜に暴れさせようというものだった。


「よし、これを奴らの村に運べ」

「だ、大丈夫ですかい?」

「お頭、こいつは絶対ヤバいっすよ」


 卵から放たれる、とてつもなく嫌なオーラに盗賊たちは完全にビビっていた。

 だがグズグズしている暇などない。

 ゴリアテは、どよめき後ずさる彼らの肩を抱いた。


「お前ら、ビビってるんじゃねぇぞ」

「しかし……」

「これが成功すればあの街丸ごと頂けるんだ。食い物も、女も、奴隷も、何一つ不自由しない生活まで、あとちょっとなんだぜ? ここで逃げだして、また昔みたいな暮らしに戻りたいのか? なぁオイ」

「う……」


 野盗たちは今までの生活を思い出す。

 主人に理不尽な扱いをされ、食うにも困り、逃げ出してきたあの日の生活。

 気づけば涙を流している者もいた。


「お、俺やります!」

「俺だって! あの暮らしに戻るくらいなら!」

「やってやろうぜみんな!」

「「おおおおおおおおおお!!」」


 雄たけびを上げながら、野盗たちは竜の卵を荷車に詰め込んでいく。

 シュニルの街へ、ゴリアテの思うがままに。



 一方その頃、リョウマは街近辺にて散策を行っていた。

 アネギアスの頼みでリョウマは街の見回りを行っていた。

 先日の襲撃の直後だ。

 街の人々の不安を解消する意味もあるのだろう。


「おお、新しい傭兵の方ですな。先日はどうもありがとうございます」

「若いのにお強い! 今朝採れたばかりの鶏の卵です。どうか持って行ってくださいな」

「私の方はお野菜を。どうかどうか」


 殆ど押し付けられるようにしてリョウマに渡される食材の山々。

 最初は断っていたが最後の方は面倒になり、結局全部受け取ってしまった。


「ふふ、こんなに貰って困っちゃいますね」

「……豊かな村ってのも考えもんだぜ」


 ため息を吐きながらも、リョウマは悪い気はしなかった。

 彼らに応えなければなと、そう思っていた。

 同様に感じいったのか、エリザはリョウマをじっと見る。


「ねぇリョウマ。次は私も戦っていいですか?」

「好きにすりゃいいさ。だがお前さん、人形は壊れたんじゃねぇのかい?」


 エリザの使うゴーレム人形は、先日の戦いで破壊され、使い物にならなくなっていた。

 ゴーレムの戦闘力は中々のもので、リョウマですら苦戦したが、エリザ本人の戦闘力は殆どないに等しい。

 リョウマの心配をエリザはくすくすと悪戯っぽく笑って返した。


「心配してくれてるんですか?」

「……」


 関係ない、と言った手前、そう指摘されると複雑な心境である。

 リョウマは一本取られたといった顔でエリザの頭をグリグリと撫でた。


「やんもう、やめてくださいー」

「はン、生意気な奴だぜ」


 そう言うとリョウマは街の外へ足を向ける。


「あ、どこ行くんですかーっ!」


 エリザはその後を、小走りについていく。

 街の外に出たリョウマはあたりに注意を払いながら歩を進めていく。

 どこへ行くつもりだろう、とエリザが不思議に思いながらついて行くと、ふいにリョウマが立ち止まった。

 エリザは勢いあまって背中に顔をうずめてしまう。


「もう、急に止まらないでくださいよ……ん」


 リョウマの前にいたのは、スライムが4匹である。

 どうするつもりなのか。リョウマを見上げるエリザだったが、リョウマは答えずそのままだ。


「倒してみろってこと?」

「戦闘中に子守をしている暇はないからな」


 一瞬、きょとんとするエリザだったがリョウマの言葉に苦笑する。

 関係ないとか言いながらもついて来るのをやめさせようとしないし、こうやって気にかけてくれている。

 そして、自分が危なくなったら助けてくれるんだろう。

 何だかんだ言っても、この人は優しいのだ。

 そんなリョウマの足手まといにはなりたくない。

 エリザは頷くと、スライムの方を向き直る。


「リョウマ、そこで見ててくださいね」

「ぴー……ぎー!」


 4匹、一斉に飛びかかってくるスライムらに向けエリザは手をかざす。

 淡い色を放つ魔力粒子がエリザの周囲に光の帯を作り、落ちていた石を包み込む。

 と、石はカタカタと震え始めると、スライムに向かって飛んでいく。


「ぴぎ……ッ!?」


 数十もの石の弾丸はスライムを貫き、撃ち落とす。

 破裂したスライムは液体を飛び散らせながら力尽きた。

 エリザはリョウマの方を振り向くと、得意げに笑う。


「どうかしら? 少しは戦えるでしょう?」

「……そうだな」


 そう言うとリョウマはエリザの頬についたスライムの体液を指で拭う。

 エリザはそれをどこか心地よさそうに受け入れるのだった。


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