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木枯らしリョウマはぐれ旅  作者: 謙虚なサークル
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魔物使いと冒険者①

 それからしばらく、リョウマは冒険者ギルドで依頼をこなす傍ら、老人に成長の木を育てるよう指示していた。

 異国仕込みの栽培に若干戸惑っていた老人だったが、元々は土に携わるプロ。

 見事成長の木を育て上げたのである。

 リョウマの手には、老人からたくさんの木の実が手渡された。


「おお、やるじゃないかじいさん」

「ま、まぁそれほどでもないですじゃがの」


 ちなみに老人は未だにリョウマのことを恐れていた。

 以前の出来事は相当なトラウマだったようだ。

 おかげであれ以来、ずっと怪しい敬語になっている。

 まぁ裏切る心配をしなくて済むので楽は楽かとリョウマは前向きに考えることにした。


「シャー!」

「お前も良くやってるぞ。まっどん」


 勿論、マッドリザード……まっどんの助けが大きかった。

 大きな口の中には大量の水が入るし、そのパワーで田畑を耕すことも可能。

 実際、殆どの力仕事はこのまっどんが行っていた。

 とはいえ魔物。昼間は目立つので夜しか動けないが、それでも十分。

 普通なら誰かに知られ騒ぎになるだろうが、老人が孤独で町はずれに住んでいたのも幸いした。


「そんじゃま、遠慮なく」


 ともあれ、手にした木の実をリョウマは口の中に放り込む。

 口いっぱいのそれをガリガリと噛み砕き、飲み込む。――――と同時にリョウマの身体に力が溢れてきた。


 リョウマ

 LV12

 力55→55

 素早さ75→75

 器用さ69→73

 魔力41→41


 ……鑑定の結果、上がっていたのは器用さのみだった。

 どうやら蒔いたのは器用さが上がる実だったようだ。


「器用さの実からは器用さの実しかできないんだな」


 当然と言えば当然である。

 しかしせめて力か、素早さか、なんなら魔力でもよかったがよりによって器用さとは……落胆するリョウマであった。


「まぁいいやじいさん、こいつは仕事料だ」


 リョウマが老人に手渡したのは50万ルプ。

 それを見て老人は驚き目を見張る。


「……っ!? こ、こんなに……!?」

「驚くこたぁねえだろ。働きには対価が支払われるのは当然だ」

「し、しかし……構わんのですか?」

「あんたが逃げねぇようにするって企みもあるのさ。構わねぇから貰っとけ」

「……っ! あ、ありがとうごぜぇます!」


 正直先刻まで老人は人生を諦めかけていた。

 金はなく、リョウマに奴隷の如く使われ、力尽きるまでこき使われる日々……そんなもの、この老骨で耐えられる自信はなかった。

 いつ死ぬか、そればかり考え死んだ目をしていた老人の顔に、初めて生気が宿った。


(……やれやれ、これでまだ頑張ってくれそうかねぇ)


 とはいえこれもリョウマの企み通りである。

 折角冒険者となったのに、手のかかる成長の木ばかり育てていられない。

 ここは老人に任せるのがベスト……そう考えたリョウマは老人をこういう形で雇うことにしたのだ。

 恐怖で縛れば、いつか心が折れて死ぬか逃げるか……そうなっては折角教えた技術が水の泡である。

 故に飴を与え、老人を飼いならすことにしたのだ。


(50万ルプはちょっとばかし痛ぇが、金は依頼で稼げばいいだけだしな)


 まだ頭を下げている老人に手を振り、リョウマは冒険者ギルドへと足を運ぶ。


「ん……?」


 その道すがら、人だかりを見つけたリョウマ。

 何だろうかと思い、ひょいと人だかりに首を突っ込む。


「さぁー、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 魔物小屋の時間だよー!」


 リョウマが目にしたのは巨大な檻。

 そこへ入れられていたのは鎖に繋がれた魔物である。

 スライム、オオトカゲ、ゴブリン、そこまで強くはない魔物ばかりだ。

 檻の前に立つ、でっぷりとした男が飼い主であろう。

 鞭を手にし、地面を打ち据えるたびに魔物はびくんと震える。


 彼は魔物使い。

 魔物を連れ歩けるよう、ギルドの許可を得ている者である。

 基本的に魔物を街に入れるのは罪だが、事前に申請すれば問題はない。

 暴れた時の対策、病気のチェックなどが行われ、危険がないと判断された場合のみ魔物を街に入れることが許されている。

 男は観客を見渡し、十分に集まっているのを確認するとしニンマリと笑い口上を始めた。


「さぁお立ち会い! これよりご覧にいれますは、世にも珍しい人語を解する魔物にございます! 楽しまれたと言う方はおひねりを、早く見せろと言う方もまた、おひねりをお投げ下さいな」

「おう、もったいぶってんじゃねえぞ魔物使い!」

「いいから早くやれや!」


 待ちきれないといった風に声を上げる観客。

 飛び交うおひねりを小間使いに拾わせながら、まぁお静かに、と宥める。

 会場の熱は十分だった。

 しっかりと勿体ぶった後、魔物使いは咳払いをして皆の方を向き直る。


「それではとくとご覧あれ! ……おい」

「はい!」


 魔物使いが命じると、小間使いは檻の扉を開けた。

 その中へ入って行く魔物使い。

 悲鳴が上げる者、目を瞑る者、歓声を上げる者……

 渦巻く反響の中、魔物使いは魔物に近づき、ゴブリンの前に立つ。

 ゴブリンはどこか、怯えているように見えた。


「よぉしゴブリン、お手だ。お手をしろ」

「グギギ……」


 ゴブリンは魔物使いの言葉に応じるようにおずおずと手に載せた。

 上がる歓声、沸き立つ観客。

 魔物使いは喝采を浴びながらも、次はスライムの前に立つ。


「スライム、宙返りだ」

「ぴぎ……」


 魔物使いに命じられ、スライムはビクビクしながらと飛び上がり、何とか一回転をした。

 着地時にべちょりと潰れたが、持ち直し喝采を受ける。


「うおーー! すげーぞ!」

「本当に言う事を聞いてるわ!」


 飛び交うおひねり、割れんばかりの拍手に魔物使いは礼を返す。


「如何でしょう? 魔物使いと魔物、互いの信頼があったらばこその芸。彼らは私の自慢の息子たちです」


 恭しく礼をする魔物使いに浴びせられる歓声。

 観客の隙間から様子を見ていたリョウマが顔をしかめる。


「……け、胸糞のわりぃこって」


 観客の熱狂とは反対に、リョウマは冷めていた。

 魔物たちの身体には無数の傷がつけられており、虐待の跡が見て取れる。

 恐らく暴力で言う事を聞かせ、従わせているのだろう。


「何が自慢の息子だ。笑わせてくれるじゃねぇか」


 とはいえ、自分に関係のあることではない。

 それに人間に捕らえられるような、弱い魔物も悪いのだ。

 リョウマは彼らを一瞥し、ギルドへと向かうのだった、


「お疲れ様です。リョウマさん」

「次のを貰えるか」

「色々ありますが……リョウマさん向けのが一つ」

「見せてくれ」

「はい、確かここに……あった」


 リョウマの前に出された依頼書には、山に住むゴーレム退治。

 依頼主はその山奥にある、ルルカ村の村長。


「ゴーレムは高い戦闘力を持ちます。しかも依頼書のは魔法まで使うとか。すでに村人数名が被害に合ってあるとの事です」

「悪い魔物なのかい」

「依頼書にはそう書かれておりますね」

「いいだろう。受けようその依頼」


 丁度むしゃくしゃしていたリョウマは、快諾する。

 悪くて強い、そんな奴を倒してスッキリしたい気分だった。


「それでは依頼書をどうぞ」


 受付嬢から依頼書を受け取ると、リョウマはそれをじっと眺める。

 ――――山にたびたび現れ、荷物を襲う極悪なるゴーレムを倒していただきたい。

 このままでは村に物資が入らず、皆干上がってしまいます。是非ともお願いいたします。

 ルルカ村村長――――


「ルルカ村か。確か明日の馬車があの山へ行くんだったな」


 こうして決まった次の行き先。

 待ち構えるは如何なるや。

 リョウマはルルカ村へと旅立つのだった。


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