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山城道三討死の事其弐
左京はわずかな供回りを引き連れ、稲葉山城下の斎藤山城守道三の私邸に出向きました。
表向きは舅である道三の見舞いです。
「よう参られた、婿殿」
道三は樹里とは似ても似つかない恐ろしい顔で微笑みました。
「うるさい!」
事実をありのままに表現した地の文に切れる道三です。
「ご機嫌麗しゅう存じます、義父上」
左京は挨拶もそこそこに人払いをさせ、話を始めました。
「新九郎殿は義父上がお考えのようなお方ではありませぬ。お仕打ちをお改めくださりたく」
左京がそこまで告げると道三は不意に立ち上がり、
「その話、聞くつもりはない。婿殿、口が過ぎると寿命を縮める事になるぞ」
その眼は渾名の通りまるで三太夫でした。
「違う! 蝮だ!」
高度に昭和的なボケをかました地の文に切れる道三です。
「わかり申した」
左京は道三が覚悟の上で長男の新九郎を疎んじているのを知りました。
(遅かったのかも知れぬ)
左京は自分の不甲斐なさを嘆き、尾張に戻りました。




