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勘十郎殿・林・柴田御敵の事其漆
行京は、左京の正室の樹里に知行として与えられた領地である篠木三郷を力ずくで奪い取りました。
「そうなんですか」
樹里はそれも笑顔全開で応じました。
「おのれ、行京め、許さぬ!」
左京は激怒しましたが、樹里は、
「左京様、行京殿の背後には林佐渡守と美作守の兄弟、そして、柴田権六殿がおります。お気をつけなさいませ」
真顔で告げたので、左京はギクッとし、
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じました。
「行京殿は川岸に砦を構え、東の領地まで奪うつもりでしょうから、こちらが先に砦を作りましょう」
樹里の案に左京はすぐに乗りました。変な意味ではないと念を押す地の文です。
「妙な事を申すな!」
何故か顔を赤らめて切れる左京です。
弘治二年八月二十二日、於田井川を渡り、名塚(現在の名古屋市西区)という場所に砦を築かせました。
砦の守りに就いたのは、佐久間大学助盛重です。
(来るなら来い、行京)
左京は手ぐすね引いて待ち構えました。




