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御徒町樹里の信長公記(四百文字小説)  作者: 神村 律子
首巻 是は左京御入洛なき以前の双紙なり
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武衛様御生害の事其参

 もう一人いた若君は、毛利十郎という者が保護し、左京がいる那古野に送り届けました。


 城中で守護であった斯波義統に日夜心遣いをし、粉骨砕身仕えていた者達も、一時的には憤りを感じて戦いましたが、皆家を焼かれ、食料も衣類もなくなり、難儀をしました。


 時の流れに身を任せず、それに背く形となった武衛様こと斯波義統は、身から出た錆とは言え、哀れな最期を迎えたのでした。


 武衛様の嫡男の岩竜丸を匿った左京は、いよいよ天下取りへの足ががりを掴みました。


「清洲の守護代を何とかせねばならぬ」


 いつになく真剣な表情で物思いに耽る元猿です。


「前々世の話はやめよ!」


 正室の樹里の膝枕でこれからの事を考えていた左京は水を注した地の文に切れました。


 守護代は同じ織田家の友京です。彼もまた家老達の傀儡に過ぎません。


「左京様、お気張りなさいませ」


 樹里が笑顔全開で左京を叱咤しました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう左京です。

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