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山城道三と左京御参会の事其陸
左京はようやく座敷に入りました。
やがて、堀田道空が湯漬けを出しました。
左京と斎藤山城守道三は一言も話さず、盃を交わし、対面は終了しました。
道三は憤懣やる方ない感情を押し殺して、再会を約束し、席を立ちました。
左京は、道三が帰るのを二十町(およそ二・二キロメートル)程見送りました。
その時、美濃衆の槍は短く、尾張衆の槍は長く、道三はそれを見比べて、ムッとした表情で無言のまま、帰って行きました。
(ざまあ見ろ、美濃の蝮め!)
左京は心の中で叫びました。道三にすぐに伝えようと思う地の文です。
「やめろ! 戦になるぞ!」
誰よりも口が軽い地の文に顔を真っ赤にして切れる左京です。
茜部まで戻った時、家臣の猪子高就が、
「織田三郎左京殿はやはり噂通りの大うつけでありましたな」
すると道三は、
「その大うつけの門前に我が息子達は馬をつなぐ事になるであろう」
それ以降、道三の前で左京をうつけ呼ばわりする者はいなくなったそうです。




