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深田松葉両城手かはりの事其壱
天文二十一年四月十七日、清洲城の実質的な支配者である坂井大膳、坂井甚介、河尻与一、織田三位が悪巧みをしました。
松葉(現在の愛知県海部郡大治町)の城へ攻め込み、城主の織田伊賀守を人質に取り、深田(同大治町)の城にも攻め寄せ、織田次京を人質にしました。
人質は厳重に監禁され、坂井らは左京と敵対する意志を示しました。
左京は十九歳の秋で、正室の樹里にメロメロでそれどころではありません。
「嘘を申すな!」
樹里の膝枕で寝ていた左京は飛び起き、地の文に切れました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「懲りない連中だ」
左京は八月十六日の明け方に那古野を出立し、稲庭地(現在の名古屋市中村区)の川端まで出陣しました。
守山(現在の名古屋市守山区)からは、左京の叔父の光京が駆けつけました。
「狸共め、目にもの見せてやる」
やる気満々の元猿です。
「前々世の話はよせ!」
懐かしい過去が大好きな地の文に切れる左京です。




