2109/2152
物の怪、最後の争いを仕掛ける事其弐拾参
北条相模守氏直は徳川内府家康からの書状を受け取りました。
(武田と上杉に抗うためと言われ、承知したが……)
氏直はまだ父である氏政が当主の時、家康の娘の督姫を正室として迎えています。
家康に似ず美人でお淑やかな女性で、氏直は督姫を大切にしました。
しかし、父氏政が織田家に反旗を翻し、氏直自身も織田とはうまくいかなくなり、織田の盟友である徳川とも暗雲が垂れ込め、督姫を浜松へ帰らせる事まで話が進みかけました。
「私はすでに北条の者です。帰る家はありませぬ」
督姫は毅然として言いました。
(あの時よりまずい事になっている。舅である内府に如何なる返答をするべきなのか……)
氏直は迷ってました。
「お方様のご意向に沿わねば、武士としての面目が立ちませぬぞ」
風魔風斎が言いました。
「何よりも内府の後ろには物の怪がおります。断じて従ってはなりませぬ」
氏直は、
「物の怪だと? 内府はまだ魅入られたままなのか?」
風斎に尋ねました。




