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名物召置かるるの事
さて、天下に名高き名物で、堺の茶人達が所有している道具の事です。
一、天王寺屋宗久所有の菓子の絵
一、薬師院所蔵の茶壺「小松島」
一、油屋常祐所有の花入れ「柑子口」
一、松永弾正久秀所有の絵「煙寺晩鐘図」
いずれも覚えのめでたき逸品であります。
これらを左京は召し出そうとしました。
そして、松井友閑、丹羽五郎左衛門長秀を使者に立て、相手に伝えました。
誰もが、左京に逆らう事はできないので、何も言わずに献上しました。
左京はその代金として金銀を渡しました。
(このようなものはいらぬのに、何故だ?)
左京は樹里の言葉に従って茶人から名物を買い上げたのですが、樹里の考えがわかりません。
元猿なので難しい事は考えられないのです。
「前々世の話はやめろ!」
悦に入っている地の文に切れる左京です。
「あの者達には、後々、たくさん働いてもらいます」
樹里は笑顔全開で言いました。
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じてしまう左京です。




