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名物召置かるるの事

 ところで、左京は、金銀、米、銭には困る事はありませんでした。


 この上は、唐土から買い入れられた天下の名品を手許に置こうと考え、以下の品々を召し上げようとしました。


 つい、遠き昔の事を懐かしみたくなったようです。


「前世とは関わりはない!」


 何かと前世と結びつけたがる地の文に切れる左京です。


 一、上京の大文字屋が所有している茶入れ「初花」


 一、祐乗坊所有の茶入れ「富士茄子」


 一、法王寺所有の竹茶杓


 一、池上如慶所有の花入れ「蕪なし」


 一、佐野家所有の絵「平沙落雁図」


 一、江村家所有の桃底の花入れ


 以上



 松井友閑と丹羽五郎左衛門長秀が使者となり、金銀、米を下げ渡して、以上の品々を召し上げました。


 天下の条目(法令)を発布して、五月十一日、美濃の岐阜城に帰りました。


「左京様、伊勢のあたりが気になります。お気をつけください」


 左京は膝枕を堪能しながら、樹里の忠告に耳を傾けました。


「伊勢の?」


 ハッとして樹里を見上げる左京です。



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