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濃州伊木山へ御上りの事其弐
もう一方の城である猿啄城は飛騨川に面していて、高い山の上にあります。
城の更に上に大ぼて山という、草木が生い茂る高台がありました。
永禄七年、その大ぼて山に丹羽五郎左衛門長秀が先駆けで攻め上り、多くの兵を登らせ、猿啄城の水源を抑えました。
水を断たれて下から攻められたせいで猿啄城はすぐに手詰まりになり、城兵は降参して命からがら城から逃げ去りました。
これも表向きは左京の采配ですが、本当は全部樹里が考え、段取りは三人のくノ一が整えたのは断じて話してはならない事だと肝に銘じる地の文です。
「何度も申すが、話すなよ!」
結局のところ、全てあからさまにしてしまう地の文に血の涙を流して切れる左京です。
(いよいよ、犬山城がこの手に届きそうだな)
左京はまるで自分の手柄のようにドヤ顔で思いました。
「ううう……」
情け容赦が微塵もない地の文の言葉に項垂れる左京です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。




