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御徒町樹里の信長公記(四百文字小説)  作者: 神村 律子
首巻 是は左京御入洛なき以前の双紙なり
143/2152

加治田の城御身方に参る事其弐

 左京の正室である樹里の子飼いのくノ一の美咲はある夜、加治田城に忍び入りました。


 その動きは目にも留まらぬ早業ですが、手裏剣は投げませんし、ござるとも言いません。


 誰にも気取られる事なく、美咲は城主である佐藤紀伊守とその嫡男の右近右衛門がいる部屋に入りました。


「何奴!?」


 忍装束で顔を隠している美咲を見るなり、佐藤父子は色めき立ちました。


「上総介様の奥方様に従うくノ一の美咲と申します」


 美咲は樹里の指図通り、そこで顔を覆っている布を取りました。


「おお!」


 佐藤父子は美咲の美しさに思わず感嘆の声をあげました。


「もはや天下の趨勢は上総介左京様にあります。お味方するとお申し出ください」


 美咲が跪いて告げると、


「承知致しました」


 父子して美咲の手を握り、デレデレする変態です。


「うるさい!」


 ありのままの姿を表現した少しも寒くない地の文に切れる佐藤父子です。


(大事ないのか、このお二方は?)


 苦笑いして心配する美咲です。

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