139/2152
二宮山御こしあるべきの事其壱
上総介左京には、優れた企みがありました。
もちろん、本当は全て正室の樹里が考案したのは断じて内緒です。
「だから内緒にしてくれ!」
滝のような血の涙を流して地の文に懇願する左京です。
清洲という場所は、尾張の国の中央にあり、金持ちがたくさんいる下衆な土地柄です。
「身も蓋もない事を申すな!」
さらに血の涙を流して地の文に切れる左京です。
ある時、身内の衆を全員同行し、山中の高山、二の宮山(現在の愛知県犬山市)に登りました。
「この山に城を造るぞ」
樹里に教えられた通りに命じる左京です。
「ううう……」
真実を明かす地の文のせいで這いつくばる左京です。
「誰も彼もここに家を移せ」
左京は命じました。どの峰に誰の家、どの谷に誰の屋敷と、事細かに告げました。
その日は帰り、また出かけて行って先だっての命令を告げました。
「この山中に清洲から引っ越さなくはならないとは難儀な事だ」
家老から下っ端の足軽に至るまで、迷惑がりました。




