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今川義元討死の事其壱
永禄三年五月十七日、駿河の守護大名である今川義元は、沓懸(現在の愛知県豊明市)に陣を構えました。
「十八日夜に大高城へ兵糧を運び込み、当方の援軍が来ないうちに十九日の朝、潮の満ち引きを考え、こちらの砦を攻めるようです」
樹里の遣わしたくノ一の一人である茜が伝えに来ました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じましたが、左京は不安全開で樹里を見ました。
「先程、佐久間盛重殿と織田秀敏殿からも知らせがありました」
もう一人のくノ一である美咲が告げました。
その夜の左京と家老衆の話し合いでは戦に関する話は全く出ず、世間話をしただけでした。
「夜も更けたから、家に帰ってよいぞ」
左京が許しを出したので家臣達はがっかりしました。家老達は、
「運の尽きる時は、知恵の鏡も曇ると言うが、今がまさにそれだろう」
皆で左京は愚かな元猿だと馬鹿にしながら帰りました。
「そこまで言ってねえだろ!」
悪口を盛った地の文に切れる左京です。




