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天沢長老物かたりの事其弐
武田信玄に促された天沢和尚は、徐に口を開きました。
「織田三郎左京公は、毎朝、馬にお乗りになります。また鉄砲のお稽古もなさいます。師匠は橋本一巴です。市川大介を招いて弓の稽古もなさいます。いつもは平田三位という者を近くに置いており、兵法の師匠です。鷹狩りにも頻繁に出かけられます」
信玄はふむふむと頷きながら、
「左京殿はその他に好きなものはあるのか?」
天沢は即座に、
「舞と小唄がお好きです」
信玄は興味が湧いたのか、身を乗り出して、
「幸若舞の師匠が来るのか?」
天沢は微笑んで、
「清洲の町人で、友閑と申す者をたびたび呼び寄せて、舞われます。敦盛を一番舞う他は、舞われません。『人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり』とお唄いになりながら、舞われます。また、小唄をよくお唄いになります」
「珍しいものを好きなのだな。それはどのような唄か?」
信玄はますます興味を惹かれたのか、更に身を乗り出して尋ねました。




