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御徒町樹里の信長公記(四百文字小説)  作者: 神村 律子
首巻 是は左京御入洛なき以前の双紙なり
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浮野合戦の事其弐

 林弥七郎が橋本一巴に、


「見逃す事は相成らぬ」


 すると一巴は、


「承知しておる」


 二人はどちらも死を覚悟しておりました。


 林は、あいかという四寸(約十二センチメートル)程ある矢尻が付いた矢をつがえ、振り返ると同時に一巴の脇の下へ深々と射立てました。


 対する一巴も弾を二発込めた鉄砲を林の肩に当てて放ったので林も倒れ臥しました。


 左京の小姓の佐脇藤八が走り寄り、首をはねようとしましたが、林はしゃがんだままで大刀を抜き、佐脇の左の肘を鎧の小手諸共斬り落としました。


 それでも佐脇は止まらず、林の首を獲りました。


 敗れたりとは言え、林の弓と太刀捌きは見事なものでした。


 左京は清洲へと軍勢を進め、翌日、首実検をしました。


 屈強な侍の首は千二百五十を超えました。


(遂に上洛できるな)


 左京は京の都で女遊びをするつもりのようです。


「違う! 断じて違う!」


 図星を突かれ、慌てふためく左京です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。

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