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御徒町樹里の信長公記(四百文字小説)  作者: 神村 律子
首巻 是は左京御入洛なき以前の双紙なり
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景清あざ丸刀の事其参

 妖刀あざ丸の噂は美濃の国でも知らぬ者がいないくらい広まっておりました。


「一度見てみたかったですね」


 戦国大名の斎藤道三の奥方が言いました。名を由里と言い、樹里の母親です。言うまでもないでしょうが、前世と同じく自由人です。


「うるさいわね!」


 余計な事ばかり言ってしまう地の文に切れる由里です。


たわけた事を申すな。そのような不吉な刀、目にするだけで運気が下がるわ」


 元々、僧侶であった道三はムッとした顔で応じました。


「そうなんですか」


 そばで聞いていた樹里は笑顔全開です。


「あら、お館様は案外肝が小さいのですね。そのような噂如きに怖気おじけづくとは」


 由里はここぞとばかりにせせら笑いました。道三は顔を真っ赤にして怒り、


「儂を愚弄する気か?」


 由里を睨みつけましたが、


「何か文句があるのですか?」


 由里に睨み返され、


「何でもありません」


 即座に引き下がるヘタレ亭主です。


「うるさい!」


 事実を述べただけの地の文に切れる道三です。

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