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白兎と金烏  作者:
二幕 大地女神編
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序章、流星

 夏の空に、ほろん、と白い光の筋が流れた。

燐圭(リンケイ)さま。あれは……」

 みどり野を歩いていた女が笠を傾けて、空を仰ぐ。目の前を横切ったそれは山の向こうに吸い込まれて消えた。直後、大地に走った振動に、大地将軍・燐圭は眸を眇める。

「星が落ちたな」

 何かと共鳴するかのように哭き始めた太刀をつかみ、燐圭は虫の声や木々のざわめきが途絶えた山に分け入る。ともに歩く女は次第に眉を寄せて、口元を覆った。

「どうした?」

「においます。とても悪いもののにおい……」

 その手のものに燐圭よりよほど敏感な女は、整った面を蒼白にしている。くずおれそうになった女を抱え上げると、「どちらだ?」と燐圭は白い額に浮かんだ汗を軽く拭ってやりながら問うた。

「東です。小川を超えた先に……」

 夏の陽射しを受けてきらめく小川はしかし、魚類がぷかぷかと白い腹をさらして浮かんでいた。そこだけ冬に戻ってしまったかのように、足元の草も枯れ果てている。

「これはひどいな」

 乾いた葉を踏み鳴らし、燐圭は開けた視界を見渡した。木々を薙ぎ倒すようにして、燐圭の両腕ほどはあろう大岩が地面にめりこんでいる。ぶつかったときの衝撃か、あたりにはまだ土ぼこりが舞っていた。先ほど空を横切って墜落したのは、この岩でまちがいないようだった。

「燐圭さま、あれを」

 女が身じろぎをして、大地に生まれた裂け目を指差す。じわじわと滲み出す瘴気は、そういったものに鈍い燐圭にも見て取れた。道の外れ。今まさしく生まれた異界への入口は、獰猛な獣にも似て、こちら側の者たちを飲み込もうとしている。

「どうされますか」

「行くさ。大地女神へ至る道をせっかく見つけ出したのだからな」

 肩をすくめ、燐圭は腰に佩いた太刀をつかむ。大地女神の加護を受けた太刀は今や、打ちなおされてすぐのように刀身から熱をほとばしらせていた。女をそばの草むらに下ろすと、燐圭は裂け目に足を踏み出す。

「お目覚めになられたか。大地女神よ」

 ふたつの丸い眸が暗闇からこちらを見上げた。

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