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「悪いが、命が惜しかったらその荷車ごと置いてってもらおうか。断れば、どうなるか分かるよな?」


 あー、定型文おつ。


 もう、そういうのいいから。


 斬新なやつをそろそろ頼みたい。


「おっと、逃げようなんて思うなよ」


 囲んだか。


 ざっと見積もって一〇〇名は超えてるな。


 ザーツバルム地方で裏切り組と残留組が激闘を始めてからは、予想通り逃亡兵と流民が増え、山賊の規模もでかくなったもんだ。


 バルトラードも頑張ってるけど、やっぱり手が足りてないね。


「妾の出番がきたようじゃな。昨日は張り切りすぎて、随分と壊してしもうたが、今日は絶好調なのじゃ」


 麦わら帽子を被り、粗末な農民の衣服を着たマリーダが、拳を鳴らして狂暴そうな笑顔を浮かべている。


 うちはマリーダ含め三〇名ほど。


 全員が農民の格好をしていた。


「なんだ、若い女がいるのか? こりゃあ、久しぶりに楽しめるな」


 逆だよ。逆。


 君らがマリーダに遊ばれるんだ。


 目の前の女子は、異世界最強の生物だぞ。


 舌なめずりしたマリーダが、飛び出していったかと思うと、鬼人族たちもカマやクワを手に山賊たちを襲い始めた。


「な、なんだ! こいつら! 農民の癖に!」


「少しは楽しませてもわらねば、妾が困るのじゃっ!」


「げふぅっ!」


 あー、これはいったなぁ。


 顔面から目玉出てるし……。


 また一人壊れたぞ。


 山賊たちは捕虜にして、もれなく全員をアルカナ鉱山の無料労働にご招待するって言ってあるのに。


「ひいいいぃ! 頭領がっ! こいつら本当に農民か!」


 残念ながら、正解は農民に偽装したいくさ大好き脳筋戦士団です。


 そこ、カマだけでサクッと鎧ごと両断するのはやめなさい。


 そっちもクワで胴体を貫かないで。


「ば、ばけものだっ!」


 武具に異常にこだわりを持つ鬼人族だが、今回の参戦への制約に武具持ち込み禁止を科したため、各々が現地で調達した武器を使って戦いを挑んでいる。


 エルウィン家の派手な軍装をしてたら、農民反乱軍とうちとの繋がりをアレクサ側に暴露するようなもんだしね。


 今回はあくまで裏方仕事。


 ザーツバルム地方で悪さをしてる山賊団を懲らしめて、無料労働力ゲットしようぜ作戦なんで。


 はぁー、ブレスト隊やラトール隊も無茶してないといいが。


 俺はマリーダによって殴り飛ばされ、へしぇげた顔から血を流した山賊の首領の前にしゃがみこむ。


「死にたくないなら、棲家に貯め込んだ財貨を全部こちらに引き渡してね」


「い、言ったら命は助けてくれるのかっ!」


「ああ、『命』は助けるよ。私も人の情はあるつもりだ。ただ、嘘を言った場合はあの凶悪生物の餌食になってもらうけどね」


「ふぅ、物足りんのじゃ。会戦、大規模ないくさがしたいのじゃ! 血を身体中に浴びたいのじゃ!」


 俺が指差した先では、マリーダが襲ってきた山賊を地面に叩き伏せ、マウントしてからフルボッコしていた。


「い、いやだぁあっ! 言う、すぐ言う。いますぐ言うから助けてくれ!」


「おっけ、おっけ。じゃあ、行こうか。いちおう、捕虜だから縛らせてもらうよ」


 俺はパンパンと山賊の服についた土を払うと、助け起こして縄を打つ。


 戦闘は短時間で終わり、襲ってきた一〇〇名の山賊たちは、脳筋戦士団とマリーダの餌食となり、一部を捕虜として確保することができた。


 こっちの被害はゼロ。


 捕えた捕虜は数珠つなぎされて、捕虜収容所と化しているヒックス城に向け、鬼人族たちに引っ立てられていく。


「さて、あとはお宝を漁りに行きますか。案内よろしく」


 半数の兵とマリーダを連れ、襲ってきた山賊たちのねぐらへ向かうことにした。



 はいはい、お邪魔しますよー。


 これはずいぶんと山賊行為に精を出して貯め込んだようですな。


 これはおまけの収入だし、換金したらティラナ周辺の無事だった農村の再興と屯田兵たちに使わせてもらおう。


 謀略が実った暁には、ティラナ周辺の安定が特に重要になってくるしね。


「はい、じゃあ回収よろしく。綺麗に全部持っていく」


「こ、これで『命』は助けてもらえるんだよな!」


「ああ、『命』は助ける。が、うちの鉱山で無料のお仕事はしてもらうから」


「くそがっ! 騙したな!」


「やるのか? 妾は戦いたくてしょうがないのじゃ!」


 暴れた山賊の頭領をマリーダが押し倒し、マウントすると頬を掠めるように拳を地面に打ち付けた。


「ひぅ!」


「文句あるなら、死んでおくかい?」


 山賊の首領は無言で首を振った。


 分かってもらえれば、こっちとしても大事な無料の労働力なので命を取る気はない。


「つまらないのじゃ! つまらない! 腑抜けばかりでつまらないのじゃー。これならカルアたんと鍛錬してた方が楽しいのじゃー!」


 山賊の首領から飛びのいたマリーダが、子供のように地面でジタバタして騒ぐ。


 これだから、脳筋たちを連れて戦場に来たくないんだよな。


 リュミナスから例の女当主と連絡が付いたって報告もきてたし、文句ブーブーのマリーダにはそっちを担当してもらおう。


「はいはい、押しかけ助っ人よりも楽しいことが待ってますんで、いったんヒックス城に帰りますよ」


「嫌じゃーー。いくさするのじゃー」


 俺はジタバタしているマリーダを荷車に載せるように、部下に視線で指示をする。


 抱え上げられたマリーダをお宝を積んだ荷車に放り込むと、ヒックス城への帰路を急いだ。

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