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アルベルト・フォン・エルウィンです。
ただいま、嫁とかわいい盛りの息子を残して単身赴任中。
パワハラ陛下からの無茶ぶり命令に枕を濡らして奮闘中です。
「アルベルト様、あーんしてください。食事中にボクの尻尾を触るのはダメだと申し上げましたけど!」
「なら、カルアの尻を揉んどく」
「ええっ! わたしですか! まぁ、身体くらいいかように使って頂いていいですが。それと今宵の奉仕はどうします?」
「ありありのありだよ。疲れた身体を癒してもらわないとやってられない。寄騎衆となったアレクサの領主たちからの情報集めで色々と固まってしまってるからね。ほぐして欲しい」
「承知した。リュミナス殿とともに頑張らせてもらう」
魔王陛下から出向指令が出て、俺はアシュレイ城から辺境伯ステファンの居城に来ている。
えーっと、何してるかというと、嫁の愛人と食事をしながらイチャコラしつつ、魔王陛下からの密命を受けて農民一揆の長期化策の草案を練ってます。はい。
それにしても、エルウィン家が頑張りすぎたせいで、エランシア帝国と境を接するアレクサ王国のザーツバルム地方は酷いありさまだ。
重税と兵役に喘ぐ農民たちが『おんどりゃああ! 畑も生活も守れてないくせに税金が高すぎるんじゃぁああ! クッソ領主ぬっころす!』と農具片手に城を打ち壊し回ってるらしい。
数で勝る農民たちにフルボッコにされて、首だけにされた領主一族が二〇家。
その様子を見て、『マジやべぇ! このままアレクサ側についてたら俺らも農民に首だけにされちまう』ってブルった領主が一七家。
農民反乱が起きるまでは、ザーツバルム地方の領主は五〇家を数えたが、ブルった一七家が頼ったのが、敵側だったエランシア帝国のステファンだったという話。
おかげですでに三七家の名がアレクサ側から消えていた。
アレクサ側に残ってる一三家も満身創痍な感じで、いつ勢いを増している農民反乱軍に潰されてもおかしくない状況だ。
「アルベルト様、ハムをどうぞ。はい、あーん」
リュミナスが差し出してくれたハムを食べつつ、情報の書かれて書類を精査していく。
農民反乱軍の数は二〇〇〇。
村長中心の合議制で運営か。
現時点で抜きんでた指導者はなし。
食糧を求めて手当たり次第にザーツバルム地方の領主たちを襲ってる。
今みたいに小領主相手にイケイケの時はいいけど、アレクサ王国が本気で討伐隊送り込んで来たら一発で粉砕されかねないな。
長引かせろとのご命令だから、彼らに簡単に消えてもらっては困る。
香油商人マルジェとして、農民反乱軍に食糧の提供を申し出るか。
余剰食糧をスラト方面から運び込めば、さしたる手間でもないしな。
食い物を与え、落ち着かせて放置されて荒れた農地を耕す屯田兵にでもするか。
流民とかも入り込んでくるんだろうし、ステファンに別枠で予算組んでもらえるかだけ、確認しとかないと。
草案として提出するための下書きとして、紙に思いついたことを書き込んでおく。
あと、ステファンからもエランシア側に擦り寄った連中の処理を頼まれてたな。
下手に扱うと、こっちに噛みついてくるから上手く処分したいところだけども。
ステファンからもらった寄騎衆の面々の調査資料を読み進める。
クズ、クズ、クズ、粗暴、粗暴、粗暴、無能、無能、無能、無能、強欲、強欲、強欲、狂人、狂人、狂人……妙齢女当主!?
身を寄せた一七家の当主の格付けを終えた。
ステファンからはどの家を保護するか一任されているため、当主と家の状態を査定してエランシア側に残す家を決めていた。
残留当確は妙齢女当主のみ。
あとは大して貢献しなそうなので使い潰したうえで処分決定。
当確したのが、女当主だったのは別に俺が女好きだからというわけでじゃない。
彼女の家の持つ血筋が大事だった。
「ステファン殿にはこの家だけ残すと伝えておいてくれ」
「ガライヤ家ですか。たしかアレクサ王国の第二王子ゴラン様の母上の御実家だったはず。当主が相次いで死んで今はゴラン様の従妹カラン様でしたね」
「ああ、謀略の中核に据えたいからね。特に援助をして欲しい」
問題は残りの一六家の処断だよな。
魔王陛下から『うちの組に来てうちの飯食ったからには、忠誠の証に元の組にカチコミかけるくらい朝飯前だよな』って圧をかけてもらうか。
農兵の動員はさせず、一族の兵だけで出兵させ、アレクサ側に残った一三家を潰させるか。
空になった領地には、ステファンの兵が防衛の名のもとに進駐しておけば、農民反乱軍も手を出さないだろうし。
いい具合にすり減ったところで、アレクサ側に再寝返りを謀っていた証拠がなぜか発覚して泣く泣く処断するという感じにしとくか。
第一段階の草案はこんな感じだろうな。
ステファンと細かいところを詰めて、実行段階にはいるとしよう。







