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アルカナ城陥落から半年、領内の銀鉱山の試掘が進んでいる。
鉱脈を探し、鉱石採掘する技術は一般人では持ちえない特殊技能だ。
なので、高度な鉱山技術者一族の『地底人』たちは、どこの国にも所属せず、契約がまとまれはばどこの国でも鉱山を掘ってくれる一族なのだ。
彼らは契約によって鉱山の採掘量の算定や採れる鉱石の種類などを調べ報告してくれるプロ集団で、ある程度の施設、技術者が育てばまた別の鉱山探しに出るらしい。
ただ、彼らの試掘で良い結果が出なければ、採算性が低い確率が高いと言われ、無視して鉱山開発した領主の大半が採算割れで家を傾けたと言われているのだ。
本来なら、リスク分散のため、鉱山開発は数人の領主が出資組合を作り、そこに採掘から製錬を任せ、上がった収益を出資割合に応じて分配していく方法が基本らしいが、うちは彼らと複数年契約しており独力で鉱山開発するつもりだ。
地底人たちとの契約金や鉱山設備投資代も馬鹿にならないが、独力開発に成功すれば莫大な富がエルウィン家に流れ込むことになる。
鉱山の専門家集団『地底人』と繋がりを持っていたニコラスを鉱山奉行として、この半年間試掘を重ねアルカナの銀山の開設場所を決定していた。
大規模な銀鉱山にするまでには、まだ随分と歳月がかかるであろうが、銀鉱脈はかなりの量が埋蔵されているらしい。
彼らの判定は大規模銀山。銀、銅、錫、鉛などの鉱床が山全体を走っており、試掘で出た銀鉱石を砕いて、鉛を使った灰吹き法で銀の抽出に成功したとの報告がきている。
プロたちも唸るほど一大鉱脈が、アルカナからは見つかったのだ。
ひゃっほい! 鉱山設備さえできればエルウィン家にお金ガッポガッポですよ!
今はまだ試掘段階で多くの鉱石を採掘できておらず、製錬設備の方も小規模であるため、産出される銀は少ないが、鉱山で働く者たち向けの街の建設の優先順位を上げていた。
来年半ばくらいからは徐々に精錬設備も整備され産出量も増えてくる予定だ。
だが、鉱山は過酷な労働環境である。坑道に入り採掘するのはとても重労働だし、落盤や地下水の出水、有毒ガスの蔓延、粉塵爆発など採掘作業の危険性は高い。
なので多くの鉱山では奴隷や犯罪者を利用して、採掘を掘り進めていた。
うちも鉱山技術者たちが決めた坑道計画に沿って、第二次アルカナ領攻防戦で捕えたアレクサ王国の農民兵たちの中で、肉体が頑健そうなやつらを鉱山の鉱石掘りとして投入する予定をしている。
戦争捕虜である彼らは、アルカナ領内で乱暴狼藉を働いた犯罪者であるため、刑期という形で賠償をさせるつもりだ。
もちろん、財物を持たない農民兵が賠償金など払えるわけもないので、代わりに無償(衣食は提供)の労働力を出してもらう。
まぁ、俺も悪徳領主みたいに『鉱山で死ぬまで働け』的な酷使は大事な無償労働力の損耗を招きかねないと思っている。
そのため、ニコラスには彼らの健康状態には特に注意を払うようにと伝えていた。
なるべく長く刑期を務めて頂き、エルウィン家に鉱山からの富をもたらしてもらわねばならない。
犯罪者も大事な人的資源の一部である。無用な損耗は国力を下げかねないのだ。
危険な採掘作業を文句言わずにやってくれるんで、多少待遇くらいは良くしてあげないと。
あと鉱山開発のリスクとして銀製錬の過程で鉛を使用するため、水の汚染の危険性がある。
俺は現代知識で鉛中毒を知っているため、採掘や製錬時の口と鼻を目の細かい布で覆うことの徹底、鉱山や製錬施設の雨水が農村側へ流れ込まないよう、ため池に隔離しろとの指示だけ付け加えてある。
鉱山の雨水汚染に関しては地底人たちも見識があるようで、ため池にろ過設備を作る提案を受けていたので、汚染された水が沢をくだって下流に流れることもないはずだ。
水は命の源だからね。汚したらマズい。
お金かかってもここだけは手を抜いたら、まじでヤバイからね。
って、まぁ、銀山の方は後は現場にお任せにしておいて、俺は今何をしているかってーと。
ソワソワしてる。
なんでって? そりゃあ、俺とマリーダの待望のマイベイビーが産まれる間近だからだよっ!
もうすぐ、パパになるんだ。ソワソワしない方がおかしいだろ。
朝からメイド長であるリシェールを始め、リゼやイレーナ、リュミナス、フリンたちが居城の寝室に陣取り、陣痛に苦しむマリーダを励ましていた。
俺も一緒に室内にいたのだが、あまりに落ち着きがないため、リシェールから退出処分を喰らっていた。
いや、でも自分の嫁が悲鳴上げてたら、焦るし、落ち着くことなんて無理だろ! 絶対無理!
「アルベルト、落ち着け。子などポンっと産まれてくるぞ」
「ブレスト殿! うちの子は家畜の子ではありませんぞ! それにマリーダも心配だ。産後は清潔にせねばならぬし。ああぁ、心配だ」
「アルベルト、あのマリーダ姉さんが簡単に死ぬわけないだろう。アレは殺しても死なぬ頑丈さ」
「ラトール! うちの嫁は繊細なのですぞ。俺が傍にいないと不安になってないか心配で」
広間をウロウロとしている俺を気にした二人が声をかけてくれているが、気が散ってしょうがない。
ちなみに男女両方とも名前は決めてある。
忙しい仕事の合間にちまちまと考えに考え抜いたキラキラネームだ。
男であれば戦闘神アレースをもじって、『アレウス』、女であれば『アレスティナ』だ。
え? 脳筋神のアレースの名を付けるのかって? 何でも病気に強くなって、身体が丈夫なるらしいからさ。迷信とか信じねぇとか思ったけど、この時代の乳児死亡率考えたら、肉体の無い神の力でも何でもいいんで使って子を健やかに育てたいのだ。
そのためなら、名前くらいはDQNキラキラネームになるくらい我慢できた。
そんなことを考えながらもソワソワと歩き回っていると、寝室の方から大きな産声が上がった。
「「「産まれた!!」」」
即座にマリーダの寝室に飛び込んでいく。
すると、そこには産まれたままの姿の子供がまだ血に塗れて産声を上げていた。
取り上げた産婆が産着を着せ、俺に手渡してくる。
「ふぅ、戦場働きよりもシンドイ仕事じゃった。じゃがアルベルトに似て、良い面構えの男になりそうじゃ。妾の乳を飲んで育ては知勇を兼ね備えた英主となりそうじゃのう。それで、名は決まっておるのか?」
出産の大事を終えたマリーダがグッタリとベッドに身を沈めながら、子の名前を聞いてきた。
「ああ、決めてある。男ということだから『アレウス』だ。アレウス・フォン・エルウィン。どうだい、いい名前だろ?」
「戦闘神アレースをもじっておるのか。やんちゃに育ち過ぎても妾の責任ではないぞ」
俺はアレウスを抱かかえながら、大役を果たしたエリーダをねぎらう。
「マリーダが頑張って授けてくれた子だ。どんな子になっても丈夫であれば、問題なしだ。さぁ、疲れただろう。しばらくはゆっくりと休んでくれ。乳母はフリンに頼むことにしよう」
マリーダが疲れて眠ると、その傍らで俺は他の女性たちと見飽きることなく嫡男アレウスをあやし続けていた。
いやあぁ、マイベイビーが可愛すぎて仕事なんてしてられねぇな。ずっと見てられるぜ。
帝国歴二六一年、瑠璃月(一二月)。
俺はついにパパになった。ひゃほーい!! 俺の子が産まれたぜぇえ!!
子供のためにも頑張ってバリバリ働くどー!!
そろそろ店頭に並んでいると思いますので、お買い上げ頂けると助かります。
例のごとく、改稿加筆は多めになっており、エロシーン追加したバージョンになってます。







