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 帝国歴二六〇年 カンラン石月(八月)


 夏の真っ盛りであるが、領内の小麦の刈り入れの終盤に入り、『勇者の剣』討伐から二ヶ月が過ぎていた。


 俺が防いだアルコー家での叛乱阻止工作を鬼人族がいたく感激したようで、役職が戦士長に引き上げられ、領地をもらった。


 ちなみにもらったのは、農村一つだ。本当は三つくれるって言ったけど、俺が辞退した。


 多すぎる褒賞は妬みを発生させる。


 もらった農村は例の叛乱に父親が関わったため、告発した息子が治める村だ。


 彼の名はミラー。三〇歳で村長となったが、今のところ滞りなく治めているらしい。


 彼の農村が俺の領地になったことを知らせると、陪臣として俺に仕えたいと申し出てくれた。


 領地を与えらえたものの、農村を直接支配する気もないし、俺は脳筋どもが暴走しないようにアシュレイ城で目を光らせておかねばならない身の上だ。


 なおで、ミラーの申し出を受け入れ、陪臣として俺の家臣に加えることにした。


 これで俺の個人的部下はワリド率いるゴシュート族の情報組織五〇名と、ミラーの村から動員できる農兵三〇名となった。


 急激に部下が増えたのだが、農村から上がる税金と俸給だけでは部下を養えなさそうなので、サイドビジネスにそろそろ手を出そうと思った。


 内緒のサイドビジネスかって? いやいや、エルウィン家の収入を増やすためのビジネスに、うちの部下たちが絡むんで、そこからまた別利益が発生するってわけですよ。


 そう、ビジネスだよ。ビジネス。ギブミーマネープリーズ。


 エルウィン家の戦闘力を向上させるためには、金の力が更に必要である。


 では、何で儲けるか。手っ取り早いのは持ってる者から奪う『ヒャッハー! 金だしやがれ』ってことだが、これはやると近隣から袋叩き確定。


 強盗はダメだ。では、何がいいか? ビジネスなんで商売しよう。商売。


 商売の基本は何か。とにかく売ってみるだ。


 なので、領内で使われず放置されている物を色々と商品化してみた。


 まず、山の民が狩猟や採取をしている山中には、いまだ手つかずの資源の宝庫だ。


 何が資源になるって考え、至った答え。それは匂いを発する植物だ。


 この世界。匂いがキツイ。いや、うちの嫁たちは日に何度も水浴びするから匂わないんだが。


 ブレストとかラトールとか身綺麗にとかしないんで、体臭がきつい。鼻が曲がりそうになる時もある。


 けど、みんな気にしないんで誰も注意しない。


 温泉とかあれば、入浴施設を作り、強制的に入浴させてもいいんだが、領内に川はあっても、温泉はない。


 なので、悪臭対策の〇ァブリーズ。じゃねえや。もとい、匂いのいい精油を開発することにした。


 ワリドに探してもらい、山中に生えるラベンター、レモングラス、ミントなどの野草、乳香(にゅうこう)没薬(もつやく)などの樹脂、白檀、ヒノキ、シナモンなどの樹皮、レモン、ライム、ベルガモットなどの柑橘類果皮などが精油の候補となった。


 この精油開発には嫁たちも加わってもらっている。


 水蒸気蒸留法を使い、原料植物を金属製蒸留釜に入れ、そこに別の場所で発生させた水蒸気を送り込む。すると、植物中にある精油成分が遊離、気化し、水蒸気と一緒に上昇。


 この精油成分が混入した水蒸気を長い金属パイプで冷却すると、液体に戻るが、精油は水には溶けない性質を持ち、水よりも軽いため、芳香蒸留水フローラルウォーターとエッセンシャルオイル(精油)の二層に分かれて溜まる。


 この蒸留施設と柑橘類の圧搾施設をゴシュート族の集落に作らせてもらい、うちの嫁を始めとした女性陣の調香師たちがオッケーを出した物を植物性油脂に溶かしこんだ香油を商品にした。


 そして、各都市に薬草や毛皮を売りに行く際、ゴシュート族の者たち整髪料やボディーオイルとして使用してもらい、気になった人にそれなりの値段で売ってあげた。


 世の中はきっつい悪臭に耐えられなかった人が多かったようだ。


 おかげでゴシュート族はいい匂いがすると周囲で噂になり、女性を始め、金持ち連中から香油はバカ売れ中だ。


 これには香油を作ったゴシュート族もびっくりしており、狩猟や採取で得る金をはるかに上回る金を発生させた。


 ゴシュート族専売にしてもよかったが、一部をエルウィン家に卸し、エルウィン家の伝手を使ってエランシア帝国内にも販路拡大させるつもりだ。


 どうするかって? そんなのは簡単だ。うちの奥さんであるマリーダの身体にたっぷりと香油を塗り込んで、乳兄妹に激甘の魔王陛下に面会させてやれば、一発で『ええもん、もっとるやないけ。おらぁ、こっちにも上納せんかい』って話なるんで、そうすれば帝国内の貴族たちに知れ渡るってことよ。


 魔王陛下に面会した貴族たちはこぞって、うちかゴシュート族に香油を買い求めてくるはずであった。


 ちなみに香油ができたおかげで俺の夜の生活も充実した。

 

 え? 何が充実したかって? そりゃあ、元々いい匂いのしていた嫁たちの身体から、もっといい匂いがするようになったことさ。

 

 香油の良い香りと、嫁たちの柔らかな肌に包まれて癒し効果は抜群だ。


 おかげで頑張り過ぎてしまうこともたびたびだ。


 媚薬効果じゃないかって? ああ、それもあるかもしれんな。おー。たまらん。これが極楽というものか。うひょー。

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