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 問題の山の民の集落は、リゼの領地から騎馬で半日ほど南に向かった高山の中腹にへばりつくように作られていた。


 こんな場所で生活するって大変だと思うが、すげえな山の民。


 リゼの家臣に案内され集落に到着したが、急勾配の険路を山登りさせられたため、足腰にきていた。


 絶対転生前の俺だったら無理な山登りだったな。あー腰にきたぜ。


 腰をトントンしながら、集落の長の家に向かう。


 内勤の俺が腰をやらかしかけた道だったが、武芸で一通り身体を鍛えているマリーダやリゼは平気そうな顔で俺の前を歩いていた。


 さすが、重い鎧を着て戦場を駆けまわる戦士たちである。


「ようこそ。貴殿がアルベルト殿か? それにマリーダ・フォン・エルウィン様もリゼ・フォン・アルコー殿までご足労頂けるとは」


 出迎えてくれたのは、大きな熊の毛皮を頭からかぶった大男であった。


 一瞬、マジで熊かと思ったが、よく確認したらちゃんと人間だったよ。


「山の民に綺麗な女の子がおると、アルベルトから聞いてのぅ。妾の女官として出仕させようかと品定めにきたのじゃ」


 マリーダさんよ。本音がダダ漏れしてるから、少しはしまって。話がややこしくなるからさ。


 マリーダがキョロキョロと集落の女の子を見つめて品定めをしていた。


 まだ、女領主だから身の回りの世話をさせるという理由で女漁りしてても領民からは好色な領主とは言われないで済んでいる。


 でも、実態は『本当の意味でのお世話』までさせられるので、マリーダが男だったら一揆が起きていてもおかしくないのだ。


「んんっ! マリーダ様、こたびはゴシュート族の危難を助けるためにきたという建前がありますので……」


「マリーダお姉様、フリンもいますし、私もいますので、しばらくはお控えください」


「じゃがのぅー。妾の身辺が寂しくてのぅー。ほら、まだ夜は冷え込むであろう? 妾の身体を温めてくれる可愛い子がおるのと、おらぬのではやる気にも違いがのう……」


 色ボケ女領主。色欲大将軍。


 きっと、後の歴史書にマリーダはそう書かれるであろう発言に俺は頭を抱える。


 確かに俺もおこぼれには預かっている身ではあるが、色欲と政治は切り離して欲しいとおもう。


 帰ったらそろそろリシェールにお仕置きをキッチリとやってもらうことにしよう。


「失礼した。我が主君は嘘が付けない性分でしてな」


「ああ、そうみたいだ。わしがこのゴシュート族の長。ワリド・ゴシュートだ。我らが願い解決してくれるとのことだが……」


 マリーダの言葉に少し引いている様子のワリドであったが、本物の熊の手みたく分厚い手で握手を求めてきた。


 彼らゴシュート族は、兎人族のフリンと同じく獣人の一族で山野を駆け巡るのに優れた山の民だ。そして、商売人でもある彼らは情報の重要性も生活の知恵として熟知している。


 もちろん、街中でもその俊敏さと隠密性は発揮される。


 この一族は密偵になれる素質が十分にあると思われた。


「アレクサ王国で流行している『勇者の剣』の信仰が、山の民にも広がり、エルウィン領に近いこのゴシュート族が山の民の間で迫害されつつあるって聞いたが?」


 俺はリゼの家臣から仕入れていたゴシュート族の苦境をワリドに確認する。


「ああ、わしらはどの勢力にも加担しないのが不文律だ。山の民の不文律を守ってきた。だが、先の戦でアルコー家がエランシア帝国のエルウィン家の保護領になったことと、『勇者の剣』が山の民の間で広がったことで状況が一気に悪化した」


 元々、アルコー家はエランシア帝国側に付いて時代もあり、今回は旧宗主国に復帰しただけのことであったのだ。


 しかし、そこに『勇者の剣』という面倒な組織が絡み、アルコー家と繋がりがあるゴシュート族が山の民から疑いを向けられているのが現状であった。


「先の戦に負けて、アレクサ王の信頼を失いつつある『勇者の剣』の教祖が、教団の勢いを取り戻し対エランシア帝国への手駒にするべく、起死回生を図って山の民の取り込みを一生懸命にはかっているのだろう?」


 俺は事前に集めさせていた情報をワリドに対して開示した。


 元アレクサ王国の神官見習いだった伝手を使い、アレクサ王国での『勇者の剣』の素行調査は終えていたのだ。


 先年のアレクサ王国の侵攻は国境の三城奪還の意図もあったが、国王を焚きつけたのはこの『勇者の剣』の教祖とされる自称勇者君であったとまで判明している。


 んで、焚きつけたはいいけど、結果が大惨敗。アルコー領まで失って、教祖の勇者君、顔真っ赤! ぷぷぷって状況。


 風向きが変わって焦った教祖の勇者君が、必死になって山の民を帰依させて、今度は山の民を使ってエランシア帝国ぶっ潰す計画を練っているそうだ。


「見てきたかのように詳しいな。聞いていた通り頭の切れる男のようだ。そちらの言う通りだ」


 ワリドは俺の顔を値踏みするような視線を這わせる。


 自分の一族を託すに足る男かどうかを品定めされている感じだ。


「情報は身を助ける。ワリド殿も今回の件で身に染みているかと思うが」


「ああ、そうだ。アルベルト殿が言う通り、情報は身を助けると痛感した。集落の者とトラブルを起こした『勇者の剣』の説教師をわしが叩き出したら、『邪神の手先』に認定された。外の情報には敏感だったが、わしも身内の情報に抜けがあったのでな。よもや、『勇者の剣』が山の民にこれほどまでに浸透していたとは思い至らなかったのだ」


 叩き出しちゃいましたか。そりゃあ、邪神の手先扱いされるわな。


 だが、ワリドの判断はあながち間違いでもない対応だ。


 説教師を放っておくと知らん間に教団が集落に勢力を増やしていく。自由に活動させれば、一族内に影響を受ける者も出る。


 影響を受けた者がでれば、あとはなし崩し的に家族内に広がり、気付いたら一族全部が帰依している可能性もあるからだ。


 きっと、他の部族はそれでやられたのだろう。


「私とワリド殿の共通の敵は『勇者の剣』だな。エルウィン家、いやエランシア帝国も『勇者の剣』が山の民を扇動して各地で蜂起されたら大事に至るので」


 『勇者の剣』の扇動による山の民の武装蜂起。


 これが、現状で考えられる最悪の展開だ。


 大陸各地の山岳部に住む者たちが、あちこちで蜂起してエランシア帝国の領地を襲えば、今でさえ大量の敵を抱えている国が更なる敵に襲われることになる。


 しかも、相手は神出鬼没の山の民という最悪の相手。


 街を襲っては山に籠るというゲリラ戦法を繰り返されたら、間違いなく疲弊し、下手をすれば国が潰れかねない事態になるのだ。


 優雅なセカンドライフを過ごすためには、ここで『勇者の剣』を確実に潰しておく必要があった。


「知恵者のアルベルト殿は『勇者の剣』をどうするのだ?」


「まぁまぁ、策は練ってきたから、ワリド殿のお力を貸してもらいたい。上手くいけば『勇者の剣』は組織ごと崩壊し、ワリド殿は山の民でも強い影響力を持つようになる」


「うまくいかねば? どうなる?」


「その時はワリド殿の一族をエルウィン家の家臣としてお迎えする用意はしている。山を下り、我が家の一員として働いてもらいたい」


「随分とムシのいい話だな。だが、現状だとその選択肢しかない。すでに我らは追い込まれておる。一発逆転をかけてアルベルト殿の策に乗るしかあるまい」


 ワリドが追い込まれているのは、集落の様子を見ても感じていた。

 

 アレクサ王国との戦から半年。


 『勇者の剣』とのトラブルから何カ月過ぎたかは知らないが、集落に活気が感じられない。


 邪教の手先扱いで猟にも採取にも出られない日々が続いているからだろうか。もしくは、他の集落と交流できなくなった不安が住民を覆って言うのかもしれない。


 山中で僻地にある集落が孤立することはゆっくりと死滅の道をたどっているのだ。


 すでに俺が差し出した手を握る以外の残された道はひっそりと死ぬことだけだ。


「まぁ、私と手を握れば悪いようにはしない。知的労働ができる有能な人材は大好きなんだ」


「うむ、ならば我らの力をアルベルト殿に見せて高く評してもらうとしよう」


 熊男ワリドの協力を得て、俺はアレクサ王国の裏で暗躍する『勇者の剣』壊滅作戦を開始することにした。



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