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アレクサ王国との国境を巡る戦がエランシア帝国の大勝利に終わって二週間。
アレクサ方面軍の方面司令官であるステファンが、参加した隷下にある各家の軍功をまとめ、魔王陛下に上奏された今回の戦における論功行賞が発表された。
魔王陛下『エルウィン家、激賞する』である。
勲功第一マリーダ。勲功第二ブレストが頂きました。ワンツーフィニッシュです。
おかげでステファンからの使者から発表を聞いた脳筋たちが、朝からお祭り騒ぎしている。
「やったのじゃ! 妾が勲功第一じゃぞ! 祝いじゃ! 祝いの酒を持て! 今日は飲むぞー! リゼ、イレーナ。妾を膝枕して酌をせい!」
「うぉおおお!! ワシが勲功第二だとぉおお!! マリーダに引けを取った覚えはないぞ。当主だからか! そうなのかアルベルト!」
ぶっちゃけ、当主率先で騒いでいるってどうよ。と思うけど、野生児だからしょうがない。ブレストもいくさ場のあの落ち着いた雰囲気からがらりと変わり朝から暑苦しく騒いでいた。
「マリーダ様もブレスト様もまだ酒は早いです。ステファン殿のご使者がお持ちになられた論功行賞の内容が書かれた書状の中身を確認せねばなりません」
酒樽を出そうとしたマリーダをたしなめつつ、ブレストやお祭り騒ぎをしていた家臣たちを大広間へ移動させていくことにした。
大広間に移動すると、ステファンから来た魔王陛下の激励の書状の内容を俺が読み上げていく。
「こたびの戦、まことに見事であった。その方らの働きを認め、マリーダ・フォン・エルウィンを勲功第一、ブレスト・フォン・エルウィンを勲功第二と認める。こたびの勲功に対し、アルコー家保護認可および帝国金貨一〇〇〇〇枚、名刀二振りを下賜することとする。謹んで受けよ」
「「「うぉおおおおっ!!」」」
鬼人族たちが一斉に歓声を上げる。いくさでの武勲を賞されることに生きがいを見いだす一族であるため、当主たちが魔王陛下からの恩賞をもらったことで、テンションがたけぇ。
だが、鬼人族たちの喜びも分かる。今回は領土防衛戦争だったから、ほとんど領土を得ることもなかった中で、アルコー家の保護許可のお墨付きはありがたかった。
お上のお墨付きがあれば、周囲から文句も出ずにやりたい放題できる。いや、まぁリゼはいい子だよ。
ベッドの中ではね。カワイイ女の子なのだよ。マリーダもイレーナもリゼを気に入って可愛がっている。日常でも夜でもね。
って、話が逸れた。アルコー家の領土をエルウィン家が保護名目での領有を魔王陛下が認めたことで、ほぼエランシア帝国側の他の領主は手出しできなくなった。
ゆくゆくはエルウィン家に併合する予定なんで、例の度量衡統一とか人口調査とか作付け調査とかもバシバシやっていく予定。
ミレビス君が口から魂を出して昇天するかもしれんが、少なくとも脳筋家よりはまともに領地管理をしているはずだから、頑張ってもらうことにしよう。一応、文官の更なる増員も視野に入れておかないとな。
望んでいた褒賞が与えられたことで、ニマニマとしていた俺は、次の瞬間に真っ青になる。
書状にはまだ続きがあった。
震える手で書状の字を追いつつ、声に出していく。
「なお、前回の手柄に加え、今回の戦場働き見事である。直接、褒詞を授けたいので、以下の者を連れ、我が居城に登城せよ。マリーダ・フォン・エルウィン、ブレスト・フォン・エルウィン、そしてアルベルト・フォン・エルウィンの三名」
魔王陛下からのお呼び出しが来てしまった。前回のマリーダの帰参の際は、俺は平民だったため謁見をできずにいたが、現在の俺はマリーダの婿候補として一応、貴族の端くれに連なることになっていたのだ。
なので、今回は俺まで、謁見をさせてもらえるらしい。
前回も今回も俺は表に立って武功を挙げたわけじゃないのに。なんで?
だが、マリーダの乳兄妹でエランシア帝国の一番のトップである皇帝職にある男には色々な噂があるのを聞いていた。
齢二五歳の青年君主。皇帝になれる四皇家の一つシュゲモリー家の当主。謀略を駆使して皇帝の座を射止め、皇帝になると、退潮気味だったエランシア帝国の領土線を有能な下級貴族を直臣に採用し積極的に対外戦争を吹っかけさせて領土拡大させている男。
ってのが、得られている情報である。後、マリーダ経由の情報ではマリーダ対しては激甘な頼れる兄様らしい。
「アルベルト。帰参の際、そちを婿にすると兄様に紹介しておったのじゃ。そしたらのぅ、『マリーダを御する男とは興味深い。会わせろ』って話になっていてな。今回は妾の婿として呼ばれたみたいじゃのう。この機会に兄様と顔合わせしておいて損はなかろう」
マリーダは俺が取り上げた酒樽を狙ってチラチラとこちらに視線を向けていた
今回、俺が呼び出されたのはマリーダの口添えがあったらしい。
俺の現状はエランシア帝国所属、アシュレイ女男爵エルウィン卿の家臣という位置だ。
つまり魔王陛下から見れば、俺は臣下である者の、そのまた家臣となる。
まぁ陪臣という形だな。
普通は中々、陪臣が魔王陛下に謁見できることはない。貴族の端くれとはいえ、エランシア帝国では無位無官の男に過ぎないのだ。
ちなみに、ブレストの場合、陪臣になったとはいえ前当主であるのと、放逐されることになったマリーダと当主を交代する際、騎士爵位がクライストから与えられたらしいので、謁見の資格に満たしている。
「我が家は常にシュゲモリー家の剣として色々と世話になっておるからなぁ。クライスト殿にも久しぶりにご挨拶しておくか」
ブレストも現皇帝と顔見知りであるようだ。
エルウィン家はエランシア帝国の南を守護する四皇家の一つであるシュゲモリー家との結びつきが強いらしい。
脳筋一族を恵まれた領地に据え、甘やかしてきた元凶が現皇帝の出身家であるシュゲモリー家であるような気がした。
「アルベルト。兄様に紹介するからすぐに王都へ出立するのじゃ。準備せい」
マリーダが酒樽を奪取するのを諦めたようで、すぐに魔王陛下への謁見に向かうための準備をするように通達してきた。
「あ、はい。分かりました。では、色々と指示を出してから出立いたしましょう」
王都までとなると、往復で数日はかかるので、その間政務が滞らないように色々と指示を出しておかねばならなかった。







