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 城下の商人組合に依頼した領主公認の分銅と尺は驚くべき速さで鍛冶職人たちが量産し、マリーダの布告という形で領内の商取引は公認分銅と尺が使用されることが決定していた。


 主にラインベールの管轄する商人組合が積極的に公認分銅と尺と容器による取引を進めたため、城下に農村から食料品を売りに来ていた者たちにも情報と布告が知れ渡りつつある状況だ。


 『取引を無事に行いたいなら公認分銅と尺と容器による計量を』って呼びかけまでしてくれるもんだから、領内は徐々に公認分銅や尺、容器が使われるようになっているのだった。


 領内については後は時間とともに使われることになるだろうが、問題は交易商人たちである。彼らは他国から荷物を運んでくるため、なかなか公認分銅と尺と容器を受け入れないようである。


 そちらの方はまた別の対応も考えつつという形で考えていた。


 それと、俺の夜のお仕事仲間に新たにイレーナという女性が加わった。


 イレーナはマリーダ付き女官兼俺の私設秘書という形で採用されている。商人の娘として計算や書類作りなど父親の手伝いをしていたおかげで、面会スケジュールの管理など、事務作業全般が得意であり、そちらで俺を助けてくれる存在であった。


「アルベルト、かわいい子猫ちゃんなイレーナは大事にあつかうのじゃぞ。一応、昼間はアルベルトに貸しておくが、妾専属の女官なのじゃからな」


「マリーダお姉様……。アルベルト様のお仕事も精いっぱい頑張らさせてもらいます」


 イレーナをがっしりと抱き寄せておっぱいを揉んでいるマリーダであるが、昼間は俺の秘書業務を行うということで取り決めを行っている。


「さて、みんなスッキリしてるはずだから、今日もお仕事に励むとしよう。イレーナ、今日は農村を見回りにいくから馬車の用意しておいてね。マリーダ様はいつものように『印章押しの鍛錬』をしておいてください。リシェール頼んだよ」


「承知いたしました。マリーダ様の監視はお任せください」


「リシェール、そなたは妾付きの女官じゃぞ。なにゆえにアルベルトにぃいん」


「さぁ、マリーダ様。準備してお仕事しますよー」


 リシェールがマリーダをベッドから引きずり出していく。俺もイレーナに身支度を手伝ってもらい、本日の予定である農村視察へ向かうことにした。


 

 目の前には一面の小麦畑が広がり、収穫時期を告げるように一面が黄金色に輝いていた。


 農民たちが農具片手に、小麦を刈り取る姿もあちこちに散見される。


 憧れのスローライフ。忙しい日々を引退し悠々自適を満喫できる農村生活が目の前に広がっていた。


 俺も早く引退してぇ。そうだ。マリーダが当主を引退したら、マリーダとリシェールとイレーナ連れて、農村運営でもしてみようかな。


 まぁ、そんなことはさておき、農村を見回っての感想を発表させてもらいます。


 まず、最前線の領地にある農村としてはとても豊かな農村に見受けられた。戦争によって荒らされた様子もなく、村にはバランスよく色んな年代層が住んでいるのを確認できたからだ。


 視察に訪れた農村はエルウィン家の領地でも平均的な租税を出している農村を選んでいる。


 これが、戦乱で荒れ果てた農村になると、畑には老人か女性か子供しかいなくなる。戦で農兵として男手を取られ労働力が激減し、農村全体が荒れ果てていくといった記録を神殿の図書館で読んでいた。


 この世界は人の数こそが労働力であり、国力であり、戦力なのだ。


 そういった意味で言えばエルウィン家の領地で平均的な農村として視察したこの村の人口数を見て、エルウィン家の領地は人が豊富にいる地であると確信できた。


 それに畑から生えている小麦の実の付き方も良く、この地が滋味に富む農耕にも適した地であることが確認できている。


 力を蓄えるのには最適の地。これが俺の下した領地への評価だった。


 視察したことで、ただ一つ懸念が顕在化していた。村長の力がとっても強いのだ。これはエルウィン家の歴代当主が放置政治を貫き通したことによって自治能力を高めた村長一族の力が結構強いという意味だ。


 ただの村人代表に過ぎない『村長』がなんで強いのかって? 理由は今から説明する徴税システムにおけるメリット一つとデメリット二つによって自動的に村長たちが強い力を得ている説明を聞けば理解してもらえると思う。


 まず地代と人頭税。領地からの税収の柱と言っていい、この二つの収税を現場で担うのが、村長たちである。エルウィン家では、村長が村の農民からの租税をまとめて集め、それを領主に提出することになっている。


 なんで、こんなことになっているのかと言えば、エルウィン家の徴税官がやらなかったからだ。


 いや、徴税官がやらなかったは語弊がある。やらなかったのではなく、徴税官が存在しなかったのだ。


 だが、村長たちによる徴税業務の請負作業は効率化という観点で見れば、ほぼ百点に近いシステムだ。


 納税者である農民が一人一人、領主のところまで租税である小麦を運ぶ手間が省かれる。


 これだけでも、往復の時間の手間が省ける。そして、領主も農民一人一人から徴収する手間も省ける。


 ここでも、租税受け取りの人員が削減ができる。


 あと、租税額を通達するのも村長にするだけでいい。これでも、連絡の手間の簡素化ができてる。


 最後に、途中でもし何かあったら、徴収責任者である村長を罰するだけでいいのだ。


 と、まぁ、とても優れた徴税システム。って、メリット面だけ見るととても素晴らしいんだが。デメリットもかなりあるんだなぁこれがまた……。

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