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翌日、倉庫に戻した在庫品と食べられないと判断された廃棄品を片付けた広場に調理担当官が期限の近いと判断した放出品を並べている。
放出品が見本市のように広げられた広場に足を踏み入れると、買い付けに来ていた酒保商人たちが見えた。
彼らは安い食糧を手に入れて、戦をしている軍隊にくっついて移動し、食料を高く売りつけて利益を出して儲けている者たちだ。
真剣な眼差しで放出品である食料を見つめ、入札するための値段を決めている。
「ああ、これはアルベルト殿、それにミレビス殿も」
ミレビスが懇意にしている酒保商人の一人が揉み手をして近寄ってきた。
今回、ミレビスが放出品を出すと聞いてすぐに駆け付けてきた男だ。彼以外にも近隣で商売をしている酒保商人が四~五人買い付けに来ていた。
ちょっと傷み始めている食べ物であるが、市価の半分程度の値付けからスタートするため、需要はまぁまぁありそうだ。いくさで食うものがない地方はいくらでもこの大陸にはあるからな。
この地では二束三文のクズ食料が戦地に行けば金と同等の価値を発生させるのである。
「フラン殿、こたびはアルベルト殿がご当主様を説得し、放出品を出すこととなりました。いつもみたく、無許可ではないので良い値付けを期待しておりますぞ」
事前にミレビスからこれまで何度も陳情書を出しては、決裁されず放置されたため、独自決裁で放出品をフランたち酒保商人に放出していたと聞いている。
放置した方が悪いので、売上金の使途についてはミレビスを責めずにいた。
ただ、今後は俺の決裁なしに放出品を出せば免職するとだけは伝えてあるのだ。ミレビスも頭は切れる男なので、俺が内政のトップに座ったことで今まで通りの仕事は通じないと理解しているようだ。
「これは、これは驚いた。アルベルト殿は優秀な入り婿殿だとお聞きしておりましたが、エルウィン家がキチンとした内政官を据えたということですかな」
「そうです。今後はアルベルト殿がエルウィン家の内政を司るトップですので、粗相のないようにお願いします」
ミレビスがフランに対して、俺への態度に気を付けるようにと苦言を呈していた。
酒保商人フランは、荒事と隣り合わせの戦場を渡り歩く酒保商人であるため、市井の商人とは一味も二味も違う図太さを感じさせる男であった。
「これは失礼をした。アルベルト殿の年齢が若いのでね。ミレビス殿のお飾りかと思ったが、今回の放出品で鬼人族たちを見事に操ったとの噂も聞きましたからな。今後とも良いお付き合いをしていきたいと思っておりますぞ」
フランは内心を見透かせない男である。心の中で何を考えているかを掴みがたい男だという印象が強い。
「お気になさらず。フラン殿が言われる通り、実績のない若輩の身でありますからな。今後はフラン殿に教えを乞わねばなりません。今後ともエルウィン家とのお付き合いを頼みますぞ」
戦場において金さえ払えば何でも揃えるという酒保商人の存在はいくさに欠かせず、有能な酒保商人は平時から付き合いをもっておいた方が良いと言われているのだ。
「うちの調理担当の折り紙付き(多分、腐っていないレベル)の一級品ばかりだからね。いい値を付けてくれると助かる」
「お値段次第ですなぁ。放出品は足の速い物も混じってますからね。それにしてもエルウィン家は、今まで放出品を出すことに当主の許可は、ほとんどなかったのに今回アルベルト殿は何と言ってマリーダ様をたぶらかしたのですか?」
隠すつもりはないが、ぶっちゃけ内政と財務に関しては、ほぼお任せ状態だ。
俺が『こーしたいんだけど。どう?』って聞けば、『おお、よきにはからえ』が当主の返事である。
ツーカーの仲といえば、かっこいいが、単に肉食系野生児ご令嬢が、戦闘と夜のお仕事以外に考えるのを放棄しているというのが正しい実情だ。







