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さて、前回は前任者の内政無能ぶりも露呈したところまで話したが、それに輪をかけて俺を苛立たせる事態が発生している。
何が言いたいかって、俺がここに来た理由だよ。戦闘種族鬼人族の管理する領地の内政・外交・謀略全般を取り仕切るためさ。なのに、その基礎となる使える資料物がほぼ全くないということが判明していた。
領地持ちの貴族家ならば、自家の税収台帳や人頭帳、金銭出納台帳、資産目録などの資料が家臣たちによって整理され、当主が自家の状況を大体把握できるようなっているはずだが、そういった資料類が一切見つからないのである。
こんな状況で一体どのように家を運営していたのか、ブレストに尋ねたが、税収は村長や商人たちが勝手に蔵に納め、いくさの金が足りなければ、領民から適当に徴収していたと自慢していた。
ハッキリ言って、頭が痛すぎる。それを歴代当主たちが繰り返してきていたのだ。
そんな適当な運営でよく家が潰れなかったなと思ったが、アシュレイ城周辺が元々肥沃な土地であり、街道交通にも優れた商業地を領内に抱えていたことで領民の資産が多かったのと、絶大な戦闘力を誇る鬼人族の不興を買うなら金や食べ物を与えていくさに集中しておいて欲しかったという下心もあったものと思う。
だが、俺がこの地に来たからには、このエルウィン家を上級貴族にまで押し上げ、優雅なセカンドライフを送るための基盤を固めるために全力を注がねばならない。
当主であり、俺の嫁であるマリーダがエランシア帝国で成り上がるために必要な物は三つ。第一に武力、第二に資力、これは財力とも言うな。最後第三に人力、これは多彩な人材のことも指すし、人脈ということも含んだ言葉だ。
そういった点で考えると、現状のエルウィン家は爵位不相応の絶大な武力はある。居城に籠れば、数万の軍勢の包囲には耐えられるだろうし、野戦においては数千の兵を蹴散らすことも朝飯前だとブレストも断言している。
国境三城を抜いた際のマリーダとエルウィン傭兵団の手際を見れば、ブレストが言う言葉も大言壮語ではない。農兵主体の軍であればマジでやりかねないのだ。
エランシア帝国最強の戦闘集団という金看板は伊達ではないのである。
家中も野生児マリーダを中心に変態的な上意下達の体育会系の忠誠心と結束を誇り、その絆は深く強固な物であった。
なので、武力という一点で見れば、エルウィン家はもっと上位貴族に叙任されていてもおかしくない家柄である。
ただ、資力、人力の二点が大いに足を引っ張り、この家の発展を阻害しているのが薄々理解でき始めていた。
陳情書の精査をしていると、その二つの問題点が大半を占め、家中を安定運営し発展させるには集中的に取り組まねばならない物であると思われた。
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