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「さすがノット家の邸宅なのじゃ! シュゲモリー家の邸宅と遜色ないくらいの豪華さ! おおぉ、ライア姉! アレ、綺麗なのじゃ! もらっていいか聞いてよいかのぅ」


「だめよー。マリーダもエルウィン家当主なのだから、旦那様におねだりすればいいじゃない」


「アルベルトはケチなのじゃ。『妾の無駄遣いは、アレウスたちを借金漬けにする』と毎日、毎日言われる」


「あらー、頼もしい旦那様ね。でも、アルベルト殿のおかげでエルウィン家は、エランシア有数のお金持ちの貴族になってるわけだし、たっぷりとご奉仕してあげないと」


「それはきっちりとやっておるのじゃ。妾も妻としての務めは一生懸命に果たしておる! 武闘大会を優勝した昨夜なぞ、寝かして――」


「ゲフン、ゲフン。マリーダ様、他家のお屋敷ですので声は小さめでお願いしますぞ」


 特に俺との夜の性活の話の時はー!


 それと、昨日の夜、とんでもなく頑張っちゃったのは溜まりに溜まった憤懣をぶつける先が、リシェールだけじゃ足りなかったから、根本原因になった本人にぶつけただけ。


 たしかに、マジでこっちの腰が壊れるかと思うくらい激しかったのは認める。


 色々と出すもの出したから、完全にアカン意味で四皇家の一つに喧嘩売った衝撃を抱え込むことができたけどね。


 ふぅ、マジで出すもの出しすぎて干からびそう。


 リュミエルの特製ドリンクを持ってくるのを忘れたのが悔やまれるわー。


 って、そんな話をしてる暇はなかった。


 今、俺たちはステファンがセッティングしてくれたノット家の当主と会見するべく、帝都にあるノット家の邸宅を訪れていた。


「アルベルトの言う通り。マリーダ、これから会うノット家の当主ヨアヒム殿は皇帝になられるかもしれぬ御方。くれぐれも粗相をしないように! お主が粗相をすれば、わしとライアも連座で首を討たれると思え」


「ステファンが首を討たれるのは別にいいが、ライア姉は絶対にダメなのじゃ! 首を討たれる前にライア姉だけかっさらってゴランの国に亡命する! アルベルトとエルウィン家の者がいれば、兄様のいないエランシアなぞ一捻りなのじゃ!」


 不穏! 不穏すぎる発言をこの場で言うのやめてくれません!


 マジでやりかねないから! 俺が苦心してアレウスたんやユーリたんのために育てた領地を捨てる羽目になるんですけど!


「大丈夫、マリーダはいい子だものね。子供じゃないんだし、粗相なんてするわけないわ」


 ライアは、キラキラと澄んだ瞳で、問題児マリーダを見つめている。


 え? マリーダがいい子? ちょっと大丈夫? 鬼人族で一番まともな人かと思ってたけど、実は一番ヤベー人なんじゃ。


「ライア姉に言われるまでもなく、妾はエルウィン家の当主なのじゃから、礼儀作法くらいはよゆーなのじゃ! さぁ、ヨアヒムと会見、会見!」


「マリーダ様、せめてヨアヒム『殿』か『様』を付けてください」


「相変わらず、アルベルトは細かいのぅ。そんなに心配性だと若いうちから禿げ散らかしてしまうのじゃ。妾は禿げ散らかしたアルベルトは見とうないぞ」


 マリーダの言葉で、俺の毛が一〇〇本くらい音を立てて抜けた気がする。


 俺が気苦労で若禿げになったら、マリーダの下の毛も全部毟ってやるんだからねっ!


「本当にアルベルトはコレを上手く御してきたな。わしはもう胃がもたんぞ」


 頼れる親戚ステファンに、ここでストレス性潰瘍なんかで倒れられた困る!


 あとで山の民特製のスーパー元気が出るヤバい特製ドリンクを贈るように指示しとくから、頑張ってくれ!


「慣れたくありませんが、慣れてしまったので……」


「お、おぅ。お主も大変だな」


 マリーダたちと廊下でワイワイと騒いでいたことで、先導役のノット家の執事さんが呆れ顔でこっち見てる!?


 マジでこいつらをうちの当主に会わせて大丈夫かって顔ヤメテ! 俺はまともだし、ステファンもまともだからぁ! 


 咳ばらいをした執事の無言の圧によって、口を閉じた俺たちは当主の待つ応接間に向かうことにした。



 執事に先導され中に入った応接間には、背中から白い羽が生えた、ほっぺがまだ赤いショタボーイが座っていた。


 ステファンもマリーダもライアもすぐに少年に向かって膝を突き、頭を垂れる。


 俺も遅れずに膝を突いて頭を垂れた。

 

「堅苦しい礼儀は不要です。今日は正式な謁見ではなく、私的な会見ですしね。ささ、席にお座りください」


「ははっ! ヨアヒム様のご配慮、痛み入ります。些少ではありますが、今回の会見への尽力に対する感謝のしるしをお納めください」


 屋敷に到着した時に、すでに現物は家の者に渡してあるため、ステファンが差し出したのは、貢納品を書き出した目録だった。


 上位の爵位を持つ貴族家に対し、手ぶらで会見に来ようものなら、塩対応されても文句は言えない。


 ステファンはうちを親戚として扱ってくれてるから、貢納品持ってこいなんて言わないけど、盆暮れにそれなりの額の品を送ってるし、魔王陛下にもしてる。


 今回は縁戚関係のない他家。それもエランシア貴族のトップオブトップの四皇家。


 ステファンと共同で準備した貢納品は、チョー奮発している。


 有ってよかった脳筋オリンピックの賞金ってくらいの額が出ているのだ。


「当家に対し、ベイルリア家とエルウィン家から過分な品を頂いたと聞いております。だが、腑に落ちぬ点が多い。なぜ、当家なのです? ベイルリア家とエルウィン家と言えばシュゲモリー家の者たちのはずですが……」


 まぁ、ショタボーイが困惑するのも分かる。


 普通は属している四皇四公家の派閥の枠組みからはみ出して縁を結ぶことはほとんどない。


 あってもかなり末席の貴族が派閥のトップに嫌われた末に、別の派閥に移籍するとかくらい話しか聞かない。


 うちやステファンのような、派閥の重臣クラスが他派閥のトップに会見を申し込むなんて前代未聞レベルなのだ。


「我が家の領地と、ヨアヒム様が治めるノット家の領地は東側で境を接しており、できれば東部領境の安定のため、よしみを通じたいと常々考えておりましたところです」


「ふむ、ステファン殿が会見を申し込んできた理由は理解できました。ですが、領境を接するわけでもないエルウィン家がなにゆえ当家に?」


「その理由は、こちらに控えたアルベルトに説明させてよろしいでしょうか?」


「アルベルト!? そこの若者が、『金棒』アルベルト・フォン・エルウィンなのか!? 赤い服も白い仮面も着けておらぬぞ!」


 皇帝候補のショタボーイが、俺の仕事着について知っていたのは驚きだ。


 見ている限りの様子だと、ヨアヒムは『金棒』アルベルトに興味津々らしい。


 たしかにアレは厨二心をくすぐる逸品。


 あとでこっそりと『金棒』アルベルト変身セットを贈っておかねば。


「お初にお目にかかります。アルベルト・フォン・エルウィンと申します。本日は私的な会見ということで、素顔を晒させてもらっております」


「ふぉおおおおっ! 本物!? そちがあの『金棒』アルベルトなのだな! そなたの活躍は魔王陛下よりすべて聞かされています!」


 ヨアヒムは席を立って、俺の手を握ると、感激したように目を潤ませていた。


「戦場において、戦陣荒らしと言われ続けた勝手気ままなエルウィン家の者たちを自在に操り、いくさは連戦連勝。内においてはエルウィン家が放置に放置を重ねた徴税機構を整理発展させ税収を劇的に向上させ、数年でエランシア有数の家産を持つ家にまで育て。謀は、エランシア帝国の長年の宿敵で強国だったアレクサ王国を四分五裂に引き裂き内戦にまで陥らせたという伝説の男」


 なんだか、スゲー誇張されてる気がしないでもないんだが……。


 魔王陛下は、このショタボーイに、あることないこと吹き込んだんじゃないだろうか。


 でも、当主がこの様子なら会見も案外うまく行きそうな気がする。


 あとはこっちの話術で、このショタボーイを絡めとるだけだな。


 俺はヨアヒムの態度を見て、会見の成功を確信していた。

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