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「勝者マリーダ! エランシア帝国大武闘大会、個人の部優勝はマリーダ・フォン・エルウィン!」


「いやああぁ! 物足らぬのじゃー! 全然足りぬー! 今年は外れの年か!」


 マリーダが個人戦での不完全燃焼を訴えて、絶叫していた。


 エランシア帝国が広いとはいえ、さすがに武力100を超えるやつはそうそういないよな。


「個人戦はマリーダの圧勝という結果か……さすが人類最強の脳筋。他家の脳筋たちに一太刀も浴びせられず叩き伏せるとは……」


 団体戦に先立って行われた個人戦は、マリーダの独壇場だった。


 他の四皇家が推薦した者と、予選リーグを勝ち上がってきた各家の脳筋たちは、鮮血鬼マリーダの本気の前に数合も打ち合えず、気絶して地面とキスをするハメになっている。


「マリーダは、出産したことでまた一段と強くなったようだな。だが、わしはまだ負けんぞ! わしが他家の代表で出てればこのように一方的な結果は起きておらんかったはず!」


「かぁー、マリーダ姉さん、マジでつえー! 今度開催される時は、親父から教わった裏技を使って個人戦に出よう」


「マリーダ様を超える武人はおらぬか。最強種族の竜人たるわたしが超えられぬのだから、当たり前と言えば当たり前」


「アシュレイ城に戻ったら、マリーダ様と真剣にやりあってみよう。これだけでも、帝都に付いてきた甲斐があった」


 脳筋四天王たちも、マリーダの勝利は規定路線だったようで、驚いた様子もなく当然だと言わんばかりの顔でマリーダの姿を見ていた。


 ただ、観客たちは数年ぶりに参加したマリーダの姿に歓喜しているようで、『マリーダ』コールが鳴りやまないでいる。


 マリーダの圧倒的な戦闘力はうちの看板なんだけども。


 これだけ派手に勝たれると、またやっかみが強まりそうだ。


 個人戦優勝者+脳筋四天王を加えた団体戦もうちの圧勝だろうし、番犬の強さを見せつけられた魔王陛下はご機嫌なんだろうけど。


 エルウィン家のかじ取りをする者としては、胃に穴が開きそうなストレスしかない。


 あー、早く脳筋オリンピックを終わらせて、家に帰ってまったりしたい。


「さて、団体戦が始まるようだし、ワシらも控室に行くとするか」


「礼儀正しく戦って、総合優勝は持って帰ってきてくださいね」


「任せておけ、エルウィン家の強さを帝国民に見せつけたうえで、優勝をしてきてやる」


 これは、派手な団体戦になりそうだ……。


 圧倒的チート武力メンバーすぎて、参加した貴族家から苦情が押し寄せそうな気もする。


 はぁ、これだから脳筋は……。


 午後になり、団体戦が始まるとエルウィン家の脳筋四天王たちの武技が参加者を震え上がらせていた。


「おい、エルウィン家はマリーダ様とブレスト様の二枚看板以外にも、とんでもないやつらがいるぞ!」


「ただでさえあの二人が人外の強さなのに、他のやつも相当ヤバい!」


「あの露出度の高い鎧の剣士の腕前。ただ者じゃないぞ!」


「大槌を持った巨漢の男も半端ない! あんなの勝てる気がしねぇぞ!」


「若い鬼人族もやたらと強い。マリーダとブレスト戦捨てて、他の三人で勝てばいいとか言ったやつでてこい!」


 カルアの圧倒的な剣技で、瞬きする間に相手が崩れ落ちる。


 バルトラードの大槌が相手の鎧ごと凹ませて、場外に打ち飛ばす。


 ラトールも何だかよく分からない技名を叫んで、相手をぶん殴って気絶させた。


 危惧していた通り、脳筋たちはやり過ぎている。


 参加者だけでなく、観客たちも圧倒的な暴力性を目の前にしてドン引きだ。


「ワシの出番がないだと! 相手がまだ残っておるだろう! いくさというのは命を取るか、取られるかだ!」


 勝利が確定したことで、出番がなくなったブレストが激昂した姿に、対戦相手はビビッて失禁したうえ気絶。


「妾の出番がないのはありえないのじゃ! 次は妾が先鋒を――! 大将なんぞ、一番弱っちいラトールが務めればいい」


「マリーダ姉! 一番弱っちいは聞き捨てならない! オレは弱くねぇ!」


「ラトールなぞ、妾が本気で一撫ですれば地面に倒れておるくらいなのじゃー!」


「言ったな! なら、ここで決着つけようぜ!」


「いいのじゃ! やってやるのじゃ!」


「はい、そこ二人。次の試合の邪魔だからどいて! どかないと失格にするよ!」


 しまいには、マリーダとラトールが次戦の先鋒の座を争い始め、審判に叱られるという醜態まで見せてくれたというオマケつき。


 あれだけ言っておいたのに!


 なんで、脳筋は三歩歩くと言ったことを忘れるんだ!


「リシェール!」


「アルベルト様の気苦労、お察しします」


 抑えきれない脳筋たちへの怒りを鎮めるため、リシェールに頭を撫でてもらい精神を統一する。


 ふぅ、マジで切れかけたわー。


 だが、こっちの気を知らない脳筋たちは、準々決勝でも、準決勝でも同じような醜態を晒し、そのたびに湧き上がる怒りを抑えるため、リシェールに頭を撫でてもらうしかなかった。


 脳筋たちが悪さしないよう、大枚はたいて確保した観覧席が、外から見えない個室なのが幸いだったぜ。


「やっと決勝ですね。アルベルト様大丈夫ですか?」


「私の血管がもたんかもしれん。すまんが、その時は医者を頼む」


「は、はい」


 眼下では脳筋たちが、決勝戦の舞台に立っている。


 相手は四皇家ワレスバーン家。赤熊髭ドーレスの家だ。


 常に上位に残る家で、エルウィン家が出なかった前回大会の覇者である。


 まぁ、見た目凶悪な感じの輩が五人並んでるが、凶悪さで言えばうちの方が上だ。

 

 試合が始まったが、終始うちの脳筋たちが圧倒的な強さを見せる独壇場だった。


「弱い! 弱いのじゃ! 前回大会の覇者であり、四皇家のワレスバーン家がこんな不甲斐ない連中しかおらんとは、拍子抜けなのじゃ!」


「わしも戦えなかったぞ! ワレスバーン家ばかりか、エランシアに強者はおらんのか!」


 3-0の圧勝で勝負がついてしまい、戦えなかったマリーダやブレストが観客席にいた赤熊髭ドーレスに向けて、挑発するような言葉を投げかけた。


 ふぁぁあああああああああああああっ! マリーダとブレストのばかぁあああああっ!


 なんで、四皇家を挑発するのさ! また、うちが目の敵にされるでしょうが!!


 赤熊髭の額にものすごい筋が走ってる! 絶対キレてるよ! アレ!


 魔王陛下も笑ってる場合じゃないでしょ! あんたの番犬がライバルに向かって吠えてるんだよっ!


「ア、アルベルト様、大丈夫ですか!」


「ごめん無理! 無理ぃい!」


 流れ落ちる涙とともに、リシェールの身体に倒れ込んだ。


 脳筋の口は絶対に縫い付けておく。


 次回開催時は、あの二人は絶対に出さない!


 もう、お家帰りたい。


 その後に行われた表彰式では、終始赤熊髭から刺すような視線がこちらに向けられ、とんでもなく居心地が悪かったので、閉会後の晩餐会もご辞退することにした。 

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