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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
番外編
91/92

優と泪 1

 人が賑わう神社の境内前。

 私はキョロキョロと、目的の人を探す。

 こんなに人がいるのなら、もっと離れた場所にすれば良かったかな。

 でもなぁ……他に良い集合場所見つからなかったし。

 ちゃんと彼女と出会えるか不安になっていた時、背後から突然誰かに肩を叩かれた。


「ひゃぁッ!?」

「やっほー、泪。待った?」


 そう言って後ろから私の顔を覗き込む中性的な顔に、私は息をつく。


「もう……遅いよ、優」

「ごめんごめん。人多いから……でも泪可愛いから迷わなかった」


 そう言って強く抱きしめる優。

 ……恋人になってから、初めての夏祭り。

 いきなりこういうことをされるとは思っていなかったので、私はつい焦る。

 大体、優は毎日のように可愛い可愛い言ってくるけど、私は可愛くない。

 とはいえ、それを毎回否定するのも疲れるので、ツッコまないが。


「はいはい、分かったから離して。暑い」

「うー……」


 不満そうに漏らしながら、優は私から手を離した。

 付き合い始めてから、優の言うところの仮面は完全に無くなったらしいが……なんていうか、物凄く幼くなった。

 まぁ、彼女の過去から考えるに、昔から愛情とかをまともに受けずに育ったみたいだし、仕方ないのかもしれない。

 ……私はどんな優でも好きだし。


「それじゃあ回ろうか」

「おー……ていうか、夏祭りとか小六以来だから、何があるのかよく分かんないや……」


 不安そうに私の腕を両手で抱きつつ、珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡す姿は、子供そのものだ。

 少し伸びてベリーショートからショートヘアになった髪を揺らしながら歩く優を見て、私は笑いを零した。


「ていうか……優はさ、お金、あるの?」

「ない」

「……まさかと思うけど、私に奢って貰う気満々とかじゃないよね?」

「違うよ~」

「……」


 屋台を見まわしながら言われても信じられない。

 とはいえ、まぁ私自身が欲しい物も特に無いし、ちょっとくらいなら奢っても良いけど。

 そう思っていた時、優がとある一点を見つめて固まる。

 視線を追ってみるとそれは、飴細工の屋台だった。


「優……あれ、欲しいの?」

「え、いや、そういうわけでは……!」

「……すごいキラキラした目で屋台見てるけど」

「うッ……」


 言葉を詰まらせた優に私はため息をつき、彼女を引っ張って飴細工の屋台まで向かう。


「や、ちょッ……私は……」

「いらっしゃい。何が良いんだい?」


 優を引っ張って屋台まで行くと、飴細工職人のおじさんが明るい笑みでそう聞いてくる。

 私はそれに「何が良いの?」と優に聞いた。

 すると、優は恥ずかしそうに目を逸らし、何度か口を開いては閉じるを繰り返す。

 やがて、小さく「ウサギ……」と言った。


「ウサギ、か。どんなウサギにする?」

「えっと……任せます」

「ハハッ、お嬢ちゃん。君の彼氏はすごく女々しい子みたいだねぇ」

「彼氏……?」

「うん? 違うのかい?」


 おじさんの言葉に、私は少しの間彼の言葉を吟味する。

 あぁ……そういえば、優は私服もボーイッシュだし、男に見えるのか。

 おまけに、五年ぶりのお祭りに緊張して私に終始密着しているし、彼氏に見られたと。

 まぁ、優は男に間違われることは気にしてないようだし、この誤解は解かないでおこう。


「あ、いえ、普段は元気なんですけど……夏祭りに来るの、すごく久しぶりみたいで、緊張していて……」

「ははっ、そうかそうか。彼氏君、彼女ちゃんを守れるように頑張れよ?」

「は、はい……」


 優は、緊張しているのか否か、そう小さく返す。

 しかし、その目はキラキラと輝き、おじさんが作る飴細工を見つめていた。

 いや、でも気持ちは分かる。このおじさんすごい。

 手慣れた様子で飴を伸ばしたり切ったりして、ほんのニ、三分程度でウサギを作ってしまう。

 やがて完成した飴細工を、おじさんは優に手渡した。


「ハイ。溶けない内に食えよ」

「あ、ありがとうございます……」


 お礼を言う優を見つつ、私はおじさんにお金を払う。

 それからまた歩き出すも、優は相変わらず無邪気な目で飴細工を見つめていた。


「……食べたいなら食べれば?」

「い、いや……私ばっかり食べるのは悪いよ……そうだ。泪は食べたいもの無いの?」

「え、あ、えっと……強いて言うなら、リンゴ飴とか、食べたいかな」


 そう言いつつ、私は少し先にあるリンゴ飴の屋台を見る。

 優の持っているウサギの飴を見ていると、私も飴系の食べ物を食べたくなってきた……。

 私の言葉に、優は「リンゴ飴!」と声を大きくして言う。


「分かった。じゃあ買ってくるから、えっと……お金頂戴!」

「え、良いよ自分で買ってくるから」

「やだ。少しでも泪の役に立ちたい」


 そう言って手を差し出してくる優に、私はため息をつき、財布から400円を取り出し、渡す。


「じゃあ、できるだけ早く戻って来てよ?」

「うんっ」


 無邪気な笑顔で大きく頷き、彼女は400円を握りしめて走っていく。

 やれやれ……と、一息つこうとした時、後ろから誰かに肩を叩かれた。

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