優と泪 1
人が賑わう神社の境内前。
私はキョロキョロと、目的の人を探す。
こんなに人がいるのなら、もっと離れた場所にすれば良かったかな。
でもなぁ……他に良い集合場所見つからなかったし。
ちゃんと彼女と出会えるか不安になっていた時、背後から突然誰かに肩を叩かれた。
「ひゃぁッ!?」
「やっほー、泪。待った?」
そう言って後ろから私の顔を覗き込む中性的な顔に、私は息をつく。
「もう……遅いよ、優」
「ごめんごめん。人多いから……でも泪可愛いから迷わなかった」
そう言って強く抱きしめる優。
……恋人になってから、初めての夏祭り。
いきなりこういうことをされるとは思っていなかったので、私はつい焦る。
大体、優は毎日のように可愛い可愛い言ってくるけど、私は可愛くない。
とはいえ、それを毎回否定するのも疲れるので、ツッコまないが。
「はいはい、分かったから離して。暑い」
「うー……」
不満そうに漏らしながら、優は私から手を離した。
付き合い始めてから、優の言うところの仮面は完全に無くなったらしいが……なんていうか、物凄く幼くなった。
まぁ、彼女の過去から考えるに、昔から愛情とかをまともに受けずに育ったみたいだし、仕方ないのかもしれない。
……私はどんな優でも好きだし。
「それじゃあ回ろうか」
「おー……ていうか、夏祭りとか小六以来だから、何があるのかよく分かんないや……」
不安そうに私の腕を両手で抱きつつ、珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡す姿は、子供そのものだ。
少し伸びてベリーショートからショートヘアになった髪を揺らしながら歩く優を見て、私は笑いを零した。
「ていうか……優はさ、お金、あるの?」
「ない」
「……まさかと思うけど、私に奢って貰う気満々とかじゃないよね?」
「違うよ~」
「……」
屋台を見まわしながら言われても信じられない。
とはいえ、まぁ私自身が欲しい物も特に無いし、ちょっとくらいなら奢っても良いけど。
そう思っていた時、優がとある一点を見つめて固まる。
視線を追ってみるとそれは、飴細工の屋台だった。
「優……あれ、欲しいの?」
「え、いや、そういうわけでは……!」
「……すごいキラキラした目で屋台見てるけど」
「うッ……」
言葉を詰まらせた優に私はため息をつき、彼女を引っ張って飴細工の屋台まで向かう。
「や、ちょッ……私は……」
「いらっしゃい。何が良いんだい?」
優を引っ張って屋台まで行くと、飴細工職人のおじさんが明るい笑みでそう聞いてくる。
私はそれに「何が良いの?」と優に聞いた。
すると、優は恥ずかしそうに目を逸らし、何度か口を開いては閉じるを繰り返す。
やがて、小さく「ウサギ……」と言った。
「ウサギ、か。どんなウサギにする?」
「えっと……任せます」
「ハハッ、お嬢ちゃん。君の彼氏はすごく女々しい子みたいだねぇ」
「彼氏……?」
「うん? 違うのかい?」
おじさんの言葉に、私は少しの間彼の言葉を吟味する。
あぁ……そういえば、優は私服もボーイッシュだし、男に見えるのか。
おまけに、五年ぶりのお祭りに緊張して私に終始密着しているし、彼氏に見られたと。
まぁ、優は男に間違われることは気にしてないようだし、この誤解は解かないでおこう。
「あ、いえ、普段は元気なんですけど……夏祭りに来るの、すごく久しぶりみたいで、緊張していて……」
「ははっ、そうかそうか。彼氏君、彼女ちゃんを守れるように頑張れよ?」
「は、はい……」
優は、緊張しているのか否か、そう小さく返す。
しかし、その目はキラキラと輝き、おじさんが作る飴細工を見つめていた。
いや、でも気持ちは分かる。このおじさんすごい。
手慣れた様子で飴を伸ばしたり切ったりして、ほんのニ、三分程度でウサギを作ってしまう。
やがて完成した飴細工を、おじさんは優に手渡した。
「ハイ。溶けない内に食えよ」
「あ、ありがとうございます……」
お礼を言う優を見つつ、私はおじさんにお金を払う。
それからまた歩き出すも、優は相変わらず無邪気な目で飴細工を見つめていた。
「……食べたいなら食べれば?」
「い、いや……私ばっかり食べるのは悪いよ……そうだ。泪は食べたいもの無いの?」
「え、あ、えっと……強いて言うなら、リンゴ飴とか、食べたいかな」
そう言いつつ、私は少し先にあるリンゴ飴の屋台を見る。
優の持っているウサギの飴を見ていると、私も飴系の食べ物を食べたくなってきた……。
私の言葉に、優は「リンゴ飴!」と声を大きくして言う。
「分かった。じゃあ買ってくるから、えっと……お金頂戴!」
「え、良いよ自分で買ってくるから」
「やだ。少しでも泪の役に立ちたい」
そう言って手を差し出してくる優に、私はため息をつき、財布から400円を取り出し、渡す。
「じゃあ、できるだけ早く戻って来てよ?」
「うんっ」
無邪気な笑顔で大きく頷き、彼女は400円を握りしめて走っていく。
やれやれ……と、一息つこうとした時、後ろから誰かに肩を叩かれた。




