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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
番外編
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凛と雛 8

 家に帰ると、すでに凛さんは帰宅していたようで、車庫に白い車が停まっていた。

 私は玄関で靴を脱ぎ、階段を上って凛さんの部屋に向かう。

 凛さんの部屋と私の部屋は階段を上った時にちょうど反対方向にある。

 彼女は私の隣の部屋が良いと言ったが、無視をした。

 隣の部屋なんて、毎日夜這いされるじゃないか……。

 そう心の中で呻きつつ、私は凛さんの部屋の扉を二回ノックした。


「どーぞー」


 中から生返事が聴こえ、私は扉を開く。

 するとそこでは、机に乗せたノートパソコンを目の前に頭を抱える凛さんの姿があった。


「ただいま……大学の課題、ですか?」

「そ。レポート」


 そう言って凛さんは何度かキーボードを叩くと、息をつき、回転椅子をクルクルと回転させて私の方に体を向けた。

 とはいえ、言うほど切羽詰まっているわけでもなく、顔色は健康そうだった。


「そんなに忙しいなら、今日は止めておきます?」

「何言ってんのさ。むしろやらないとやってられないよ」


 笑顔で言う凛さんに、私は息をつく。

 ホント、付き合う前は、よく耐えられたなこの人。


「ところで雛ちゃん。あのお友達二人はどうなった?」


 少し身を乗り出しながら、凛さんはそう聞いてくる。

 それに、私は今朝のことを思い出す。


「あぁ……特に何も無く、これからも仲良く出来そうです」

「そっか……そりゃよかった」


 安心した表情でそう言い、凛さんは椅子の背凭れに体重を預ける。

 心配していてくれたのか……。そう思うと、少しだけ胸が熱くなった。

 付き合うようになってからは、性欲の方が面に出てくるようになった。

 でもなんだかんだ、優しくて人を気にしすぎてしまう人。

 むしろ、少しくらいワガママになってくれた方が、お互いに支えあえてるって感じがして良いかな。

 ……そのワガママが性的すぎるのは考え物だが。


「あ、そういえば真美と瑞穂が言っていたんですけど」

「んあ?」

「……恋人同士で敬語とかさん付けは変だって」


 私の言葉に、凛さんは無言で私の顔を見た。

 彼女の視線になんだか恥ずかしくなって、私は俯いた。


「えっと……じゃあ、呼び捨てする?」

「ぅぅ……」

「は、恥ずかしいなら私も呼び捨てするよ。あ、敬語だって、別にそういうのは気にしないよ?」


 凛さんの言葉に、私は口を噤む。

 今更だけど、これで敬語止めたり呼び捨てにするのは、人に言われて変えたみたいでなんか嫌だ。

 でも、改めて考えて見ると、確かに恋人同士で敬語だったりさん付けだったりするのは余所余所しい気がする。

 そもそも体の関係を結んでいる時点で充分対等な関係だと思うし、今更かしこまるのもなんだか違う。


「……呼び捨て、しましょう」


 緊張してしまったせいで、そう言った声はかなり震えていた。

 かなり表情が強張っているのを感じる。

 そんな私の顔を見ている凛さんの表情は、微妙に引きつっていた。

 私はそれに一度深呼吸をして、いざ凛さんの名前を呼ぼうとする。

 しかし、いざ呼ぼうとすると声が喉に詰まって、上手く言葉にならない。


「雛ちゃん?」

「……やっぱり、凛さんから先に呼んでください」

「へ!?」


 驚く凛さんに、私は俯く。

 彼女には申し訳ないが、いざ呼び捨てしてみようとすると、上手くいかないのだ。


「……雛」


 そう聴こえ、私は顔を上げた。

 目の前では、私の顔を真っ直ぐ見つめる凛さんの姿があった。


「ぁ……」

「……雛」


 もう一度名前を呼ばれる。

 その途端、顔が耳まで熱くなるのを感じた。

 咄嗟に腕で顔を隠そうとするが、凛さんに腕を掴まれできなくなる。


「ホラ、私が名前呼んだんだから、雛も!」

「……は、離して……凛……」


 なんとかそう言った瞬間、凛さ……凛、の顔が、真っ赤になる。

 私の腕を掴む力が緩んだので、私はその手を振りほどき、ゆっくりと後ずさった。


「ぁ……雛っ……」


 しかし、凛が咄嗟に私を追おうと身を乗り出し、バランスを崩す。

 私と凛は床に倒れ込み、彼女に押し倒される形になる。

 ゆっくり瞼を開くと、そこには、至近距離に凛の顔があった。


「ッ……!」


 ただでさえ呼び捨てで熱かった顔が、さらに熱くなる。

 すると、突然凛に唇を奪われる。


「んむ……!?」


 驚いていると、凛はゆっくり唇を離した。


「ごめん……雛、可愛すぎて……」


 凛の言葉に、私は口をパクパクとさせる。

 すると凛が制服のボタンに手を掛けるので、私は慌てて彼女の腕を掴んだ。


「ちょ、待って! まだ早い!」

「明日休みだしちょっとくらい良いじゃん!」

「凛がちょっとで終わるわけないもん!」


 そう叫びながら私は彼女から逃げ、部屋を飛び出す。

 まぁ、凛も冗談半分だったようで、それ以上は追いかけては来なかったけど。

 けど昼間からあの調子か……今日の夜は激しそうだ。


「……でも幸せとか思う私って……」


 それでもなお、やっと凛と恋人になれたという自覚をしたからか、嬉しくなってしまう単純な自分に辟易した。

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