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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
番外編
84/92

凛と雛 2

<雛視点>


「はぁぁ……」


 昼休憩になり、弁当を食べていた真美は大きくため息をついた。

 彼女の様子に、瑞穂が「どうしたの?」と声を掛けた。


「どうしたの、も何も……次の五時間目参観日だよ?」

「あぁ、確かに……しかも親の目の前で、家族なんてタイトルの作文発表だからね……ちょっと憂鬱」


 そう言いつつ眼鏡の位置を正す瑞穂の言葉に、私は「大変だねぇ」と相槌を打った。

 私の反応に、真美はキョトンとした表情を私に向けて来た。


「え、ひなっちの家は来ないの? 親」

「うん……ていうか、うちは親が離れて暮らしてるから……元々こういう行事は無関心で」

「もしかして、一人暮らししてるの?」

「え、一人暮らし!?」


 驚いたように言う真美に、私は面食らう。

 そこまで驚くことなのか……?

 まぁ、確かに凛さんが来るまでは一人暮らしみたいな状態だったか。

 召使さんはいたけど、まともな会話を交わしたこともなかったし。


「んー……小さい頃から最近までは一人暮らしだったよ。一応親が召使雇っていたけど」

「え、何それすごい羨ましい」


 真美の言葉に、私は苦笑する。

 確かに一般的に見れば、かなり羨ましいかもしれない。

 でも、凛さんと暮らし始めると、もうあの頃に戻りたいとは思わない。


 どれだけ狂っても、誰にも気づかれない。

 どれだけ泣いても、誰も涙を拭ってくれない。

 どれだけ嬉しくても、その喜びを誰とも共有できない。


 あの孤独は……耐え難いものだ。


「最近まで、と言うと……今は違うの?」


 瑞穂の言葉に、私は頷いた。


「うん。今は恋人と暮らしていて」

「ブハッ!?」

「ゲホッ!?」


 私の言葉に、真美と瑞穂が同時に吹き出す。

 そこで、私も慌てて口を手で押さえた。

 しまった。つい口を滑らせた!

 そう思っている間に、真美はすぐに呼吸を整え、私の机をバンッと叩いた。


「ひなっち! いつの間に恋人なんて出来たの!」

「えっ……正式に付き合うようになったのは、三ヶ月くらい前かな……一緒に暮らし始めたのはもう少し前だったけど」

「そ、そんなに前……?」


 驚いたように漏らす瑞穂の言葉に、私は首を傾げる。

 すると、真美は頬杖をついて、またもやため息をついた。


「良いよねぇ、美人は。ひなっち、モテモテだもん」

「いや、それは無いでしょ……」

「いやいや。ひなっち可愛いもん。ね~? みずっち」


 そう言ってジト目で瑞穂に投げかける真美。

 彼女の言葉に、瑞穂は頷いた。


「うん。だって雛ちゃん、前に雑誌のモデルしたりしていたでしょ? 少なくとも、美人なのは確定だと思うけどなぁ」

「そうなのかなぁ……でも、モテモテって……」

「いやいや、ひなっちを狙ってる人は多いよ~? でもそっかぁ。彼氏いるのかぁ」


 彼氏、という言葉に、私は自分の頬が引きつるのが分かった。

 あぁ、そっか……世間一般では、恋人というものは異性であるのが当たり前なのか。

 分かっている。分かっている、けど……。


「あ……恋人っていうのは……!」

「そういえばさぁ、彼氏で思い出したんだけど~」


 咄嗟に訂正しようとした時、真美がスマホを取り出しながらそう口を開いた。

 彼女の声に私は口を閉ざし、目を伏せた。

 しかし、改めて考えてみると、恋人が同性なんておかしいし、いらぬ噂を立てられる可能性もある。

 そもそも、同性を好きになるなんて、アブノーマルなことだ。

 ここは訂正せずに、勘違いさせたままにしておいた方が良いかもしれない。


「ひなっち聞いてる?」


 頭の中でそう結論付けていた時、真美にそう聞かれた。

 彼女の言葉に、私はすぐに笑顔を浮かべて見せた。


「ごめん。ボーッとしてた。何の話?」

「も~……実はさ、この間……」


 真美の言葉を聞きながら、私は凛さんお手製の弁当を口にした。

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