第Ⅰ-27 告白
「それは……本当、ですか……?」
掠れた声がした。
私は目を見開き、目の前で眠っているハズの少女を見つめる。
しかし、涙で目の前が霞んで、見えない。
慌てて袖で自分の涙を拭い取り、私は改めて前を見た。
「雛……ちゃん……」
「さっきの、言葉……本当ですか……?」
そこには、私の方を見つめながら口を開く雛ちゃんがいた。
予想外の出来事に、私はしばらく放心する。
「えっと……」
何と答えれば良いのか、さっぱりわからない。
下手したらずっと目を覚まさないのかと思っていたから。
でも……本当かどうか、か……。
「……本当」
「ッ……」
私の返答に、雛ちゃんは目を丸くした。
それに私は耐えきれず、彼女の手を強く握った。
「私は……雛ちゃんのことが、好き」
「それは……泪さんと重ねてるんじゃ……!」
「違う! 私は……雛ちゃんが好きなの!」
そう叫んだ瞬間、雛ちゃんの顔が赤く染まる。
耳まで真っ赤になった顔で、キョロキョロと視線を彷徨わせる。
「え、で、でも、私、まだ、その……ヤンデレ? も、治り切って、ないし……」
「大丈夫。多少狂気的な愛くらい受け止める」
「いや、でも……歳の差もありますし……」
「三歳差くらい普通だよ」
「それでも、凛さんに私なんか……」
「雛ちゃん!」
私はすぐに雛ちゃんの手を握り、顔を近づける。
今の雛ちゃんに体を動かすことは苦痛かもしれない。
だから、私が近づくんだ。私の想いを、彼女に届けるんだ。
「ぅぁ……」
「……雛ちゃんは、私のこと、好き?」
そう聞くと、雛ちゃんの顔がさらに赤くなる。
まだ赤くなる余地があったのか、と少し驚いてしまった。
しかし、しばらく視線を彷徨わせた後で、彼女は私の目を見つめた。
「私も……凛さんのことが、好きです……!」
「……だったらさ、それでいいじゃん。お互い好きなら、それで幸せ」
私がそう言いつつ笑って見せると、雛ちゃんはリンゴのように真っ赤になった顔で目を逸らした。
でも、少ししてから私の顔を見つめて、小さく頷いた。
「……はいっ」
その返事に、私はフッと息をついた。
ていうか、今更だけど、意識戻ったなら誰か呼ばないとダメなんじゃ……。
そう思いつつナースコールに手を伸ばそうとした時、服の胸の辺りを掴まれた。
「ん……?」
視線を下ろした時、そのまま服を引っ張られ、私は前のめりになる。
咄嗟に左手を雛ちゃんの顔の横の辺りに当てて、雛ちゃんを床ドンするような形で踏みとどまる。
危ない危ない、とひと安心していたところに、雛ちゃんが僅かに体を起こして、私の唇を奪った。
「ッ……!?」
「……えへへ」
唇を離した雛ちゃんは、嬉しそうに笑いながらベッドに倒れ込む。
突然の出来事に、私はしばらく放心する。
やがて、状況を理解すると同時に、顔が熱くなった。
「ちょっ……!」
「凛さん顔赤い……可愛い」
大分顔の熱が収まって来たのか、ほんのり染まった頬で言う雛ちゃんに、私は唇を噛みしめる。
いつもなら私から行く方なのに……!
いや、恋人同士になれたとしても、今彼女は怪我人。おまけにここは病院だ。
結局しばらく夜の営みが出来ないのか……クソッ。
「とにかく、まず色々検査とかしてもらわないと」
そう言いつつ体を起こしてナースコールを押そうとしていると、雛ちゃんがクスクスと笑ったのが分かった。
私はそれがなんだか悔しくて、ナースコールを押すと同時に、ベッドで眠っている雛ちゃんの顔の横に腕を置いて体重を支え、彼女の唇を奪った。
「……!」
「……怪我全部治ったら、これ以上のこと、教えてあげるから」
そう耳元で囁いてみると、彼女の顔はまたもや赤くなった。




