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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第Ⅰ章:失恋の先に咲く百合
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第Ⅰ-24 病気

 榊野雛。

 彼女は、私から完全に泪を奪った張本人である優ちゃんに一方的に……かなり病的に好意を寄せていた少女だ。

 いや、あれは病的とかその程度で済む話ではない。

 異常。病気。狂気。

 パッと思いついたのがそんな単語であるくらいにはかなりヤバい。

 そして、残念なことに本人は無自覚とまで来た。

 正直、このまま彼女を野放しにするのはかなり危険。

 いずれニュースで彼女の名前を見てもおかしくない。

 そもそも私と彼女の出会いは彼女が優ちゃんを殺そうとしていたところだったしね。


 まぁ、彼女の暴走には泪も関わっているし、姉として、妹が起こした問題のアフターケアは私がしておいた方が良いだろう。

 そう判断した私は、雛ちゃんの心の病気を治すために色々調査した。


 まず、ネットでそういう系に関する情報を集め、治療法を探した。

 そこから導き出した結果、彼女の友好関係と生活習慣を一度見直し、場合によっては改善等を行った方が良さそうだった。

 赤の他人の私がズカズカと彼女のプライベートゾーンに踏み込むのは気が引けるが、もしこれで彼女が暴走してその矛先が泪に向いたらと思うとゾッとする。

 私のことはどう思われても良い。ただ、もし泪に危害を与えるかもしれないと考えると、やはり彼女の病気は治すしかないのだ。


 それから、私は彼女を呼び出し、ショッピングなどに連れ回した。

 その中で彼女の情報を聞き出し、改善するべき箇所を判断しては治していった。

 最初は、あくまで泪のアフターケアをしないと、という義務感からの行動だった。

 しかし、途中からは、楽しんでいる自分がいることに気付いた。

 雛ちゃんと一緒にいたい、と思い始めていたのだ。


 それは、泪と雛ちゃんが似ているからだった。

 無論、見た目は全然違う。

 でも、中身はかなり酷似しているのだ。

 引っ込み思案で人見知りで、雰囲気とかがすごく似ているんだ。


 だから、私はいつしか、雛ちゃんと泪を重ねていた。

 そして、まるで泪で埋められない穴を雛ちゃんで埋めるように、私はどんどん彼女に魅了されていった。


 彼女の私生活の改善という名目で一緒に住むようになった時、正直、夜にこのまま彼女を押し倒してしまうのではないかと危惧した。

 ただでさえ、一時期自分の心を満たすためだけに男女問わず性行為をしてきた私だ。

 風呂上りの雛ちゃんを見たら、理性の一つでもぶっ壊れて、そのまま押し倒し、傷つけてしまうのではないか。


 彼女には……そんなことはしたくなかった。

 泪と重ねているから、という理由が、かなり大きい。

 彼女は、私にとっては、好きとかそれ以前に、大事な妹のような存在なのだ。

 しかし、やはり泪とは違って血が繋がっているわけではないし、理性を失ったら、今までベッドに引き込んだ輩と同じように見てしまうかもしれない。


 そう思った私は、自分の酒の弱さを利用して、コンビニでビールを買って一気飲みをした。

 意識が混濁するくらいまで飲んで、そのまま眠ってしまおうと思ったのだ。

 初夜の出来事があるので、あまり人前で酒は飲まないようにしているから泥酔した時どうなるかは分からない。

 しかし、初夜の相手をしてくれた先輩曰く、少なくとも自分から積極的に襲ったりとかは無かったらしいので、雛ちゃんを襲うことは無いと信じたかった。


 結果的に、どうやら私は雛ちゃんを襲わなかったらしい。

 リビングで寝ていたのが気付いたら寝室のベッドで寝ていた時は驚いたが、雛ちゃんの話では、私がリビングで寝ていたのを彼女が運んでくれたという。

 それ以外は特に問題は無いらしいので、ひと安心。

 彼女に迷惑を掛けたかもしれないが、理性を失って彼女の初夜を共にするよりは百倍マシだ。


 酒で誤魔化しながらの同居生活を過ごしていた頃、雛ちゃんの高校で期末テストが行われる時期になった。

 私生活の改善という名目で彼女に家事をさせているため、恐らく前のテストより彼女の勉強時間は減っている。

 そう考えた私は、彼女に勉強を教えることにした。


 しかし、いざ教えてみようとして、つい雛ちゃんと泪を重ねてしまい、それを本人に指摘された。

 そこまでは良かったのだが……その後で、つい彼女が口を滑らせて、とあることに気付かされた。


 私は泥酔した中で、雛ちゃんを泪の名前を呼びながらキスしていたらしい。

 それも、酒に酔った日は毎日。


 ……最悪だった。

 彼女を傷つけないために酒に溺れたのに、結果として私は雛ちゃんを傷つけていた。

 しかし、彼女はあまり気にしておらず、毎日していたので今更どうってことないと言っていた。

 とはいえ、流石にこれからは、酒は控えようと思った。

 ……アルコールの力を借りずに理性を保つことが出来るかは不安だったが。


 とはいえ、それでもどうにかごく普通の日常を送れていた。

 雛ちゃんのテスト期間の間は家事も極力私が引き受け、夜は彼女に勉強を教えた。

 正直、理性を保つのがやっとだったが、なんとか彼女の初夜を迎えずに済んだ。

 そんな日々を過ごしながら雛ちゃんのテスト前日になったある日、事件は起きる。


 雛ちゃんに、告白をされてしまった。

 いや、告白と言うにはあまりにも遠まわしだし、彼女の治りきっていないヤンデレがフル発動していたが。

 それでも、あれは告白だ。

 なんでも言うことを聞くと言ったらエッチな質問がどうとか聞いて来たり、最終的には私の胸ぐらを掴みながら「私だけを見て!」的なことを叫ばれた。


 まさか、ずっと両片思いだったなんて予想外だった。

 多分、彼女のヤンデレが再発してしまったのは、優ちゃんに泪を取られたこともあるし、泪という存在が彼女のヤンデレの引き金になっているのかもしれない。

 恐らくだが、彼女のヤンデレはほとんど完治している。

 優ちゃんへの想いを振り切ったり、今私が雛ちゃんと関わるようになる前と変わらない友人関係を送れているのが、何よりの証拠だと思う。


 しかし、ここで二つの問題が生じた。

 まず一つ目は彼女の告白のタイミングがテスト前日だったこと。

 流石にテスト前に恋人なんて出来てしまったら、浮かれてテストに集中できないかもしれない。


 そしてもう一つは……私が未だに、泪と雛ちゃんを重ねていること。

 しかし、彼女の叫びにより、私の中で何かが弾けた。

 世界が変わったような感覚がして、今までとまるで違うものが見えた気がした。


 なんだかんだ、ずっと私は泪と雛ちゃんを重ねていた。

 泪と重ねることで、泪では埋められない心の空洞を埋めようとした。

 しかし、雛ちゃんに私だけを見ろと言われたことで、私の中で、彼女等は分離した気がした。

 泪は泪。雛ちゃんは雛ちゃん。

 そう分けて見ることが出来た気がした。

 それが、雛ちゃんのテスト一日目の時のこと。


 そして、分けて見るようになって……分かったことがあった。

 私は確かに、雛ちゃんと泪を重ねていた。

 しかし、冷静になって見比べると、二人は似ているようで全然違っていた。

 生活態度だとか、服の好みだとか……その他諸々。

 恐らく、泪が優ちゃんと付き合って、傷心していた頃に現れた泪と同い年の子だったから、きっと無意識に重ねてしまっていた。


 けど、改めて雛ちゃんと泪を分けて見るようになって、確信した。

 私は……雛ちゃんのことが好きだ、と。

 雛ちゃんのために何かしている時、すごく幸せな気持ちになる。

 彼女の顔を見る度、安心感と、幸福感が湧き上がってくるのだ。


 彼女のテストは二日間で終わる。

 だから、テストが終わった時、私は彼女の気持ちに応えようと思った。

 私達なら、きっと、幸せになれる。

 そう確信していた。


 ……それなのに……。

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