第Ⅰ-19 数学
「数学マジ意味不明~」
六時間目の数学の授業が終わった後、よく話す女子グループの内でかなりギャルっぽい雰囲気の強い大川 真美がそうぼやいた。
彼女の言葉に内心呆れつつ、私は「そうかな?」と聞き返す。
「今回は割と簡単じゃなかった?」
「そりゃ、ひなっちは頭良いからそう感じるだろうけど、あたしからしたらマジ理解不能だっての」
「いや、私数学は苦手な方なんだけど……」
「えー……でも今回は割と難しめだよね? しかも、がっつりテスト範囲だし……」
そう言いながら困ったように笑う眼鏡を掛けた女生徒、村谷 瑞穂の言葉に、私は鞄にしまおうとした教科書を見つめる。
しばらく見つめて、今日授業でやった範囲は、ちょうど昨日凛さんに教えてもらった場所ということを思い出す。
凛さん曰く私の物覚えは良いようで、結構早いスピードで進んでいる。
そのため、どの教科も授業より進んでいたようだ。
しかも、流石は現役大学生というべきか、彼女の教え方はとても上手い。
「いやぁ、ひなっちは頭が良いから羨ましいわ。ねぇ、この後暇なら、一緒に勉強でも……」
「あー……ごめん。この後は、ちょっと用事が……」
「用事? 何があるの?」
「大したことじゃないんだけどね。まぁ、ちょっと夕飯の買い物を」
「勉強できる上に、買い物する余裕があるとは……何て奴だ」
「ごめんね。明日なら空いてるけど」
私の言葉に、真美は「本当!?」と返す。
それに頷いて見せると、「よっしゃぁ~」と言ってガッツポーズをした。
「ね、良かったらそれ、私も行って良い?」
すると、瑞穂がそう話しかけてきたので、私は「もちろん」と頷いて見せる。
その時、スマホの画面にLINEのポップアップ通知が表示された。
見なくても、相手と内容が想像できてしまう。
「じゃあ、そろそろ行くね。人待たせてるから」
「はいよ~」
「また明日ね」
手を振る二人に私も振り返し、鞄を背負って教室を出る。
廊下を速足で横切り、玄関で靴を履き替えて外に出る。
それから自転車小屋やら教員用駐車場を抜けて、来賓用の駐車場に行く。
見慣れた白い車を見つけて、私はすぐに駆け寄り、扉を開いた。
「……遅い」
運転席でそう言って唇を尖らせる凛さんに、私は「ごめんなさい」と言いながら笑い、助手席に乗った。
「ちょっと授業のことで、友達と話し混んじゃって」
「本当は私を待たせるために、わざと話したりして?」
「そんなわけないじゃないですか。……それより、早く行かないと、夕方のスーパーは混みますよ?」
「はいはい。それじゃあ行きますか」
凛さんはそう言ってエンジンをかける。
私はそれにシートベルトを締めて、凛さんを見た。
彼女はそれに「行くよ~」と言って笑い、アクセルを踏んだ。




