第Ⅰ-17 最低
凛さんと暮らすようになって、私にとっての当たり前が一つ増えた。
それは、毎夜泥酔する凛さんの相手だ。
「ヒック……るいぃ……るいぃ……」
「はいはい。全く、飲むなら自分の部屋で寝ろって言ってるじゃないですか」
本日もリビングで酔いつぶれた凛さんを引きずって、客室……もとい、凛さんの部屋へと連行する。
ビールは毎日自分の金で買っているし、生活費だって出してくれるから、別に文句は無い。
ただ……。
「ホラ、寝るならベッドで」
ベッドに腰掛けさせ、部屋を出ようとした時、腕を掴まれた。
……またか。
「るいぃ」
そう言って凛さんは私の腕を引いて、顔を近づけさせる。
頭を強引に挟まれ、無理矢理唇を奪われた。
数十秒ほどの口づけを終えた後で、凛さんはそのままベッドに倒れ、眠ってしまう。
……凛さんは毎夜、泥酔しては私にキスするようになる。
私が凛さんを運ばなければ良い話かもしれないが、リビングでそのまま寝かせるわけにもいかないし、仕方なくベッドに運んでいる。
その度に今みたいにキスされて、そのまま彼女は眠ってしまうのだ。
別にキスすること自体は咎めない。
ファーストキスは優に捧げてしまったし、今更二度三度キスされたところで何か減るものでもあるまい。
ただ……凛さんが私を泪さんと勘違いしたままであることが少し気がかりだ。
というより、なぜかは分からないが、虚しく感じるんだ。
「ホント、変な感じだな……」
凛さんの部屋を出てから、ポツリと呟く。
胸にポッカリ穴が空いたような……変な感覚がする。
優が、他の女の子と話していた時に感じていた痛みに似てる。
苦しい……苦しいよ……。
「私……ホント屑だ……」
一人、そう呟く。
ちょっと優しくされたら、すぐになびくような人間だったんだ。
でも、よく考えたら当然だ。優にあんなことするような人間なんだから。
私が屑で最低な奴だってことは……最早、常識じゃないか……。
「……だったら、これは当然の報いなのかな……」
一人で、また呟く。
これは報いだ。報復だ。贖罪だ。
一人の少女の人生を滅茶苦茶にして、そのくせ、自分は幸せになろうとする屑の私への報い。
きっと私がこれから好きになる人は、皆誰かに恋してる。
私に振り向いてくれることは無いのだろう。
……別に良いじゃないか。
私はそんな一生を送るに相応しいくらいの重罪を犯したのだから。
むしろ、そんな私にとって、凛さんの存在は勿体なさ過ぎるくらいだ。
これ以上を望むなんて……身の程知らずだ。
だって私は……最低少女だから。




