第Ⅰ-7 未体験
<雛side>
優達が住む町は、来るのは二度目だが、相変わらず私にとっては未知の世界だった。
私は恐る恐る駅から出て、前と同様、南口で凛さんを探す。
「おーい」
その時、声を掛けられ、私は顔を上げる。
見ると、そこには白い車から顔を出してこちらに手を振る凛さんの姿があった。
「凛さん!」
私はすぐに鞄を背負い直し、凛さんの車に駆け寄った。
それから助手席に乗り、シートベルトを締める。
そんな私を確認してから、凛さんはアクセルを踏み、車を走らせる。
「さて……まずは、雑誌の発売おめでとう」
走り出した車の中、凛さんはそう切り出す。
私がそれに「あ、ありがとうございます……」と返事をすると、凛さんは「そう固くなるなって」と笑う。
固くなるなと言われても、年上と二人きりなんて状況、慣れることできるわけない。
そう心の中で愚痴っていると、凛さんが前を見ながら続けた。
「話を聞いた感じだと、雑誌に載った効果はあったわけじゃん? あれから、話しかけられたりする回数も増えたんだって?」
「は、はい……前より大分、派手な感じの子にも慣れて……」
私の言葉に、凛さんは「それは良かった」と言う。
それからハンドルを切って角を曲がり、進んでいく。
「それにしても、まさかカラオケに行ったことないとは……」
「……そもそも行く相手がいなかったんです。……優は、そういう場所に誘ったりとか、無かったですし……」
「へぇー……意外」
凛さんの言葉に、私は服の裾を握り締める。
そもそも、私は優とまともに遊んだことも無かった。
私からは切り出す勇気も無かったし、優からはそういう話は一切してくれなかったし。
そんなことを考えていると、凛さんが「まぁ……」と口を開く。
「カラオケって、別に初めて行っても困ることなんて無いと思うけどね」
「そういうものなんですか?」
「うん。仮に全員初めてでも、分かりやすいし、すぐに楽しめるよ。まぁ、高校二年生となると大体の子は知ってるから、教えてもらえるでしょ」
「で、でも……何も知らなかったりすると、その……変に思われたりとか」
「気にしすぎだって~。まぁでも、確かに色々システムを知ってる方が楽ではあるけどね」
「ですよね……」
私の言葉に、凛さんは「まーねー」と返事をしながら、小さな駐車場に車を停める。
それに、私は車を降り、目の前にある建物を見上げた。
「でも、だからって体験しようってなるとは思いませんでしたけどね」
「だって一回行った方が分かりやすいでしょ。まぁ、分からないことがあったら聞きなよ」
「はい……」
凛さんの言葉に返事をしつつ、私は、彼女の背中を追いかけながら建物に踏み入った。




