第Ⅰ-6 道化師
<凛side>
「最近、なんだか楽しそうだね」
今日の講義が終わり、帰り支度をしていた時、友達の七瀬 智美がそう声を掛けて来た。
彼女の言葉に、私は鞄に教科書等を入れながら、「そう?」と聞いた。
すると、彼女は頷く。
「うん。何、妹ちゃんと何か良い事でもあった?」
「私の良い事イコール泪っていうのはどうかと思うけど……むしろ、毎日彼女とのイチャイチャについて聞かされて辛いよ」
「ホント、凛ってお人好しだよね~。好きな人の恋を応援するとか、私には真似できんわ」
智美の言葉に、私は笑いつつ、筆箱を鞄にしまう。
「好きな人であると同時に妹だからね。妹の恋を応援するのは、姉として当然だから」
「ここまで清々しく善人とシスコンを貫けるのはある意味尊敬するわ……」
呆れた口調で言われた言葉に苦笑しつつ、私は一度荷物をしまうためにスマホを取り出した。
すると、ちょうどそのタイミングで、黒かった画面に、LINEのポップアップ通知が表示される。
それに私は動きを止め、電源をつけてLINEを表示する。
「ん? LINE?」
「うん。まぁね」
「また可愛い可愛い妹ちゃんから~?」
「どうでしょう」
そうはぐらかしつつ、私は画面を見た。
LINEは雛ちゃんからで、適当に設定したヒヨコの背景が踊る。
下に現れたメッセージを、私は見つめる。
少ししてメッセージを読んだ私は、相変わらず不器用な雛ちゃんに苦笑しつつ、メッセージを返して鞄に教科書をしまい始める。
「妹ちゃん、何だって?」
すると、智美がそう言って身を乗り出してきた。
……泪であることは確定なんかい。
私はそれに内心呆れつつ、口を開いた。
「いや、泪からじゃないから……てか、なんで泪確定?」
「え? いや、凛LINE見てからさらに嬉しそうな顔したからさぁ。てっきり妹ちゃんからかと思ったんだけど」
「違う違う。まぁ、泪の恋愛事情に付き合う中で知り合った女の子、かな」
「へぇ~……じゃあ、その子のことが好きなんだ?」
「はぁ!?」
つい、大きな声で聞き返す。
すると、智美は「うるさいなぁ……」と言いつつ、耳を塞ぐ。
いや、それどころじゃない。私はすぐに彼女の肩を掴み、続ける。
「さっき、何て言った!?」
「だから、その子のことが好きなのかって言ったの」
「なんで!?」
「いや、アンタLINE見た時、妹ちゃんのこと話す時と同じくらいキラキラした目をしてたよ?」
「マジ……?」
「マジマジ」
「……」
その言葉に、私はゆっくりと彼女の肩から手を離し、しばらくの間考える。
そもそも、雛ちゃんは私にとっての何だ?
友達……では、無い気がする。
じゃあ何だ? 後輩? 失恋仲間? 同志? 可愛い後輩?
……どれもよく分からない。
私が黙ってしまったのを見て、智美はため息をつく。
「まぁ良いんじゃない? すでに妹ちゃんと付き合える確率なんてゼロなんだし、さっさと次の恋に進めば?」
「……そういうわけにはいかないよ」
私の言葉に、智美は呆れたようにため息をつく。
彼女の反応に私は笑いつつ、鞄を背負い、教室を後にした。
確かに、雛ちゃんのことを特別視しているのは感じる。
でも、それはきっと……彼女が泪に似ているから。
もし、私が彼女のことを好きなんだとしたら、それはきっと……泪と重ねているからだ。
異常だと思われても良い。でも、事実だから。
私はきっと、一生……泪を愛し続けるだろう。報われない恋を続けるのだろう。
別にいいさ。だって、私は……―――運命によって出会い結ばれた二人を引き立て、報われない恋をして、読者に笑われて終わるだけの負けヒロイン―――道化少女なんだから。




