第Ⅰ-3 改善
「……それで、私がヤンデレだとして……本題は?」
なんとかそう切り出すと、凛さんは「あぁ、そっかそっか」と言う。
「まぁ、単刀直入に言うと、このまま君のヤンデレを直さず社会に放つのは少し……危険過ぎると思うんだよ」
「はぁ……」
「それで、まぁ、貴方の想い人を奪った相手が私の身内であるわけだし、責任は姉が取るべきかと思って」
「なるほど……」
私がそこまで言った時、店員さんが注文した商品を持ってくる。
テーブルに並べられるコーヒーとガトーショコラに、私はゴクッと生唾を呑み込んだ。
「あはは、遠慮なく食べなよ~」
「い、いただきます……」
そう言いつつ、早速、テーブルに備え付けられた砂糖を一袋分と、ミルク一個分を入れてよく混ぜる。
それから何度か息でフーフーして冷まし、口に含む。
コーヒーの苦みと、ミルクと砂糖の甘さがほどよく混ざり合い、すごく美味しい。
「それで、あれからネットで軽く調べたんだけど、まぁ、ヤンデレっていうのは、コミュニケーションが苦手だったり、引っ込み思案な子がなりやすいみたい。雛ちゃんってそういうタイプ?」
「……」
いきなりの質問に、私はカップを握る手を少し強める。
別に、友達がいないわけではない。
ただ、それはあくまで優の真似をしただけの話だ。
優の真似をしない素の私には……誰も、気付いてくれないから……。
無言になってしまった私に、凛さんが「やっぱりか」と笑う。
「まぁ、色々とグダグダした説明は省くけど、とにかく、まず友人関係をちゃんとすることから始めた方が良いと思うんだよね。あと、こっちはメンヘラの方になるんだけど、運動とか食事とかも割と関係してくるみたい。……食事とかはちゃんとしてる?」
「……」
どうしよう……ちゃんとしてない。
両親がほぼ家にいないおかげで、私の食事は基本買い食いだ。
コンビニ、ファーストフード等々……。
目を逸らしている私に、凛さんは呆れたように笑い、身を乗り出してきた。
「というわけで! しばらくの間、雛ちゃんがヤンデレを直すまで、私が手助けしてあげるっ」
「……はい?」
ガトーショコラを切り分けていた時、突然そう言われ、私はつい聞き返す。
すると、凛さんはニカッと笑い、私の持っていたフォークを取って、ちょうど切り分けたばかりのガトーショコラを刺す。
「だから、しばらくの間、雛ちゃんがまともな性格になれるようにお手伝いをしてあげるのさ。今の条件でヤンデレが直るなら、直った時には、友達がたくさんできて、規則正しい生活を送れる最高の状態になってるわけだし……悪くない話じゃない?」
「いや、私は……んぐッ!?」
遠慮しようとした時、口にガトーショコラを入れられた。
まさか、私にケーキを頼ませたのはこうするためか……?
いや、彼女なら最悪あのクリームをたっぷり塗りたくったスコーンでも同じことをするだろう。
私が精一杯批難の感情を込めて睨んでみせると、凛さんはクスクスと笑った。
ちなみに、ガトーショコラもとても美味しかった。




