第Ⅰ-2 ヤンデレ
「それじゃあ第一回、失恋同盟の~……なんだろう?」
「……決まってないなら言わないでください」
カフェテリアの二人掛けの席で、私と凛さんは向かい合って座っている。
私達のこの会に何か名前を付けたかったようだが、結局思いつかない凛さんは「うーん」と頭を悩ませている。
別にそんなことどうでもいいだろうに……。
私は呆れつつ、窓の外を眺めた。
「あぁ、ちょっと。無視しないでよ」
「……私、そういうくだらない話をしに来たわけじゃないので」
「いきなり本題に入ってもあれじゃんか。まずはのんびり雑談でも……」
「これ以上無駄口叩くなら帰りますよ」
私の言葉に、凛さんはシュンとした表情で黙った。
……なんだか捨てられた子犬みたい。
そう思いつつ、私は凛さんの顔を見る。
「それで、えっと……なんで呼んだんですか?」
早速本題に入るために、私はそう切り出す。
優にフラれた日、私が優との出会いからあの日までの出来事を語った結果、凛さんは引きつった笑みで「とりあえず……連絡先交換しようか」と言って来た。
それからLINEを使って何度か連絡を取りつつ、凛さんの案で、私は本日呼び出されたのだ。
だから、正直言って、今日なんで呼ばれたのか私は把握していない。
ただ、どうせすることもないし、別に良いかなぁ的なノリで来ただけだ。
「いやぁ……以前、砂浜付近で、雛ちゃんと優ちゃんの思い出をたくさん聞かせてもらったわけだけど」
「はぁ……」
「あれを聞く限り……貴方をこのまま野放しにするわけにはいかないなぁと」
「……どういう意味ですか?」
私が苦笑混じりに聞くと、凛さんは無表情のまま私の額を軽く突いた。
驚いている間に、凛さんは口を開く。
「雛ちゃんさぁ……多分無自覚なんだろうけど、君、天然のヤンデレだよね?」
「……はい!?」
突然の言葉に、私はつい大きな声で聞き返す。
すると、凛さんは「シーッ!」と人差し指を口に当てながら言うので、慌てて私は辺りを見渡した。
……周りからの視線が痛い。
私は会釈をしつつ席をつき、小声で聞き返した。
「ヤンデレ……って、私がヤンデレなわけないじゃないですか」
「……普通の人はね、好きな人が別の人を好きになったからって、その人を殺そうとなんてしないよ」
「……」
確かにそうだ。
私は何も言えなくて、押し黙る。
すると、凛さんはソッとメニューを差し出してきた。
「……?」
「とりあえずさ、何か頼もう?」
その言葉に、私はハッとする。
あぁ、そっか……私達、何も頼まずにひたすら雑談を……。
確かにそれじゃあ店員さんに失礼だ。
「私は紅茶とスコーンかなぁ……あ、遠慮なく何でも頼みなよ。私が奢るから」
「え、でも……」
「遠慮するなって~。年下に自腹切らせるような真似はしないからさ」
その言葉に、私はメニューを見る。
カフェ自体あまり来たことないんだけど……何があるのかとか、よく分からないし。
ただ、私の中では、カフェは飲み物を嗜む大人な場所ってイメージだったのだが、ここは割と普通の食事なんかもあるらしい。
ピザとか、スパゲッティとか。
「えっと……じゃあ、コーヒーで」
「ふーん……ケーキは?」
「……良いです」
流石にケーキまで頼むのは図々しい。
そう思っていると、凛さんがムーッとした表情をして私を見ていた。
「えっと……凛さん……?」
「雛ちゃん……我慢してるでしょ」
「えッ」
つい聞き返すと、凛さんはニヤッと笑って、メニューの一か所をトントンと叩いた。
その先を視線で追うと、それは、ケーキの一覧だった。
「えっと……」
「食べたいんでしょ? さっきから、目線が微妙にこれに向いていたよ?」
「ッ……」
「お互い失恋仲間なんだし、遠慮しなくて良いからさ。で、何が食べたいの?」
「……ガトーショコラ……で」
仕方なくそう言うと、凛さんは「よしよし」と笑い、店員の一人を呼んで注文していく。
……すごいなぁ。
それが、素直な感想だった。
人見知りしてしまう私とは違って、凛さんはハキハキと、初対面の人でも構わず話しかけられる。
まるで優みたい……。
そう思っていると、凛さんが手を組み、笑顔で私を見た。
「それじゃあゆっくりお話しよっか。ヤンデレ雛ちゃん?」
「……ヤンデレなのは認めますから、その呼び方はやめてください」
私の言葉に、凛さんはクスクスと楽しそうに笑った。
……先が思いやられる……。




