第Ⅰ-1 待ち合わせ
電車に揺られながら、私はゆっくりと瞼を開く。
いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
これで目的の駅を乗り過ごしていたらと少し焦るが、向かい側に座る、私と同じタイミングで乗った目的地が同じのおばあさんがまだいたので、ひと安心して背もたれに体重を預ける。
なぜこのおばあさんが同じ目的地なのか分かるのか。
それは、券売機で、私が買った切符と同じ値段の切符を買い、こうして同じ方向の電車に乗っているからだ。
優を好きだった頃に手に入れた観察力は、こうして無駄な場所でその威力を発揮してくれた。
……優が泪さんと付き合うようになってから、人生がモノクロに変わった。
あの日、凛さんと話していた時、泪さんに付いて私の所に来た優は、私の顔を見てかなり怯えていた。
彼女の顔を見て、察してしまった。私は、取り返しのつかないことをしてしまったのだと。
きっと、もう優とは、恋人どころか、まともな友好関係を持つことすらできない。
いや、当然か。自分を殺そうとした相手に、今更近づこうなんて思わない。
凛さんに色々話して冷静になったのか、それからの私の行動は早かった。
すぐに優のクラスメイトに電話をして、優の孤立化を止めさせた。
まぁ、普通に考えてイジメを止めろと言って止める相手ではないのは分かっていた。
だから、私はイジメを止めさせるのではなく、相手を変えることにした。
優に近づく可能性がある相手をピックアップするために、一度クラスメイトの情報は得ていた。
それから適当にターゲットにしやすそうな相手を選び、そちらをターゲットにするように話を運んだだけ。
もう、優が私を愛さないことは分かっている。
今更、今までみたいに、自分だけのものにしようという気は起きない。
……でも、未だに彼女の写真や、画像データが、捨てられずにいるんだ……。
『次は―――』
その時、アナウンスが聴こえた。
アナウンスで言われたのは……私の目的地であり、優や泪さんが暮らす町の駅名だった。
「えっと……ここで良いのかな」
駅から出て、南口? とやらに来たのは良いが、目的の相手がいない。
私はスマートフォンやら、周りの看板を見て、本当に自分がいる場所が待ち合わせ場所で合っているのかを確認する。
その時、近くに見覚えのある白い車が停まった。
「……あれ、かな……?」
そう呟きつつ、私は鞄を背負い直し、小走りでその車の元に駆け寄った。
それから運転席の方の窓を覗き込むと、窓が開き、中から待ち合わせをしていた相手が顔を出した。
「お待たせ。ホラ、ボサッとしてないで助手席乗って!」
「は、はい……今日は、よろしくお願いします……凛さん」
私の言葉に、凛さんはニカッと白い歯を見せて笑った。




