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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第五章:咲き誇る百合
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第5-8 未来

<泪視点>


「ふぅ……」


 綺麗に盛り付けができた弁当箱を見つめながら、私は息をつく。

 その時、リビングの扉が開く。


「ふわぁ……泪、おはよぉ……」

「おはよう、優。……眠そうだね?」

「普通ああいうことした日の朝は眠いものなの……泪が朝強いだけ」

「ふーん……」


 そう生返事を返すと、優はまたもや欠伸をした。

 それに私は苦笑しつつ、エプロンを脱いだ。


 優と付き合ってから、早三年の月日が経つ。

 私も優も、今年で二十歳だ。

 現在、私達は同居しており、お互い別々の大学に通っている。

 基本、生活費は私の家から仕送りしてもらっていて、それで足りない分は二人でバイトをして補っている。

 だから、そこまで貧乏で困ったりはしていない。


 そうだ。あれから変わったことと言えば、お姉ちゃんと榊野さんが気付いたら付き合っていた。

 話を聞いたところによると、優にフラれた榊野さんをお姉ちゃんが慰めている間になんだか意気投合し、そのまま流れで付き合ったらしい。

 榊野さんの愛が異常だからかなり心配したが、どうやら大丈夫そうらしい。

 お姉ちゃん曰く、「流石にあの子も反省したみたいで、盗撮とか暗躍とか、もうしないみたいだよ」って言っていた。

 ……盗撮? 暗躍?


「お、これ今日の朝ご飯?」


 思考が脇に逸れていた時、優がそう言ってテーブルに置いてある朝食を見た。

 私はそれに我に返り、すぐに彼女に応答する。


「うん。……私、少しトイレ行ってくるから、先食べてて良いよ」

「はーい」


 返事をしてから優は席につき、「いただきまーす」と挨拶をして食べ始める。

 私はそれに苦笑しつつ、トイレに向かう。

 彼女との生活は中々幸せなもので、毎日が充実していた。


 優と付き合うようになってから、なぜかは知らないが優へのイジメも無くなった。

 前みたいに多少クラスメイトと関わるようになったが、優は専ら私にべったりだった。

 彼女に感化されたのか、私自身も少しずつ人見知りが無くなり、三年生になった辺りからは、多少はクラスメイトと話せるようになった。

 今の大学では、高校までに比べると大分友達が増えた方だ。


 優は、大学ではかなりモテるらしい。……女子から。

 昨年のバレンタインでは、大量のチョコレートを持って帰ってきていた。

 無論、全て女子からだ。

 しかし、彼女はそれらを全部床に放って、目を輝かせながら私にチョコを強請ってきたが。


「……うん?」


 バレンタインデーの時の可愛らしい優を思い出しながら手を洗っていた時、鏡に映る自分に違和感を抱いた。

 私は首を横に傾け、首筋に視線を……―――。


「なッ……」


 私が違和感を抱いた箇所、首筋には、小さく赤い痕がクッキリと付いていた。

 これ……まさか、昨日の夜に……!?


「ちょっと、優!」


 私は慌てて手を拭き、優を叱りにリビングに向かう。

 扉を開けると、ちょうど美味しそうに朝ご飯を頬張る優の姿があった。


「あ、泪! 今日の朝ご飯もすごく……」

「優ッ!」


 咄嗟にそう名前を呼ぶと、彼女はビクッと肩を震わせた。

 私はそれに大股で歩いて行き、机に手をついて、キスマークが付いていた辺りを指さして見せる。


「うん……?」

「これ! するのは良いけど、服から出ない場所にしてって言ってるよね!?」


 そう言うと、優はしばらくキョトンとした後で、「あぁ!」と言う。

 あぁ、じゃないよ……。


「いやぁ、昨日は泪の寝顔がいつも以上に可愛くて……」

「だからってこれは……!」

「こんなに可愛い泪を取られたらやだなって思って」

「……」


 しょんぼりした表情で言われると、言い返せなくなる。

 私はしばらく口をパクパクとさせた後で、ため息をついた。


「……今日だけだからね」

「やった」


 小さくガッツポーズを取る優に呆れていた時だった。

 テレビから、そのニュースが流れたのは。


『次のニュースです。昨日、本会議により、日本での同性婚が認められることが決定し……』


 その言葉に、私達は同時に動きを止め、テレビを見つめた。

 どうやら、昨日行われた会議で、同性婚が認められることになったという話で……。

 私は、ゆっくりと優に視線を向けた。


「泪……同性婚って……女同士でも結婚できるようになる……ってこと、だよね……?」

「……うん。多分」

「つまり私達……結婚できるようになる……って、こと……?」

「……うん……」

「っ……」


 優は突然身を乗り出し、気付いた時には私の体を抱きしめていた。

 未だに思考を整理できていない私は、ただ彼女に身を委ねることしかできなかった。


「ちょ、ちょっと優……苦しいよ……」

「嬉しい……泪と、ずっといれるようになるんだもん……」

「……私も嬉しい」


 私はそう言いつつ、彼女の体を抱きしめ返す。

 すると、優は「えへへ……」と笑い、さらに抱きしめる力を強くした。


「私……絶対泪を幸せにする……」

「大丈夫だよ。優といれば、私は幸せなんだから……」


 私の言葉に、優は「そっか……そっか……」と言いながら、さらに強く私を抱きしめた。

 大丈夫。私達二人なら、きっと、幸せになれる。

 たとえ透明になっても見つけ出すし、たとえ仮面を被ってしまっても、その仮面を打ち壊して見せる。

 どんな困難が待ち受けていても、二人なら乗り越えられるって、信じているから。

 でも……―――


「結婚も良いけど、それより先に、大学卒業しないとね」

「あっ……」

「ホラ、早く朝ご飯食べて学校行こう?」


 私の言葉に、優は「はぁい……」と返事をして席につき、朝食の続きを再開する。

 その様子に私は苦笑しつつ、彼女の肩を叩いた。


「優」

「ん? な……」


 こっちを向いた優の唇に、私は、自分の唇を重ねた。

 ほんの一瞬ではあるけど、柔らかい感触が、微かに残る。

 私は、ぼんやりした様子の優に微笑んで見せた。


「愛してるよ、優」

「あ、うん……私も……」


 ポカンとした表情で言う優に私は笑いつつ、席について手を合わせた。


「いただきまーす」


 さぁ、今日も一日が始まる。

今回で一応最終話になります。

次回から番外編に入ります。

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