第5-3 行方不明
優が来ない理由。
最初は風邪とかの類かと思ったが、どうやら違うようで、先生にも欠席の連絡は来ていないらしい。
それならば遅刻かと思ったが、結局彼女が来ないまま、その日の授業は終わった。
「……優、何があったんだろう……」
帰り道を歩きながら、私は呟く。
仮病であることは分かる。
でも、なぜ……もしや、昨夜の告白が原因か……?
そう思いつつ顔を上げた時、私は息をついた。
「結局、ここに来ちゃうんだなぁ……」
どうやら無意識の内にここにきてしまっていたらしい。
気付いたら目の前にあった優の家があるアパートに、私はもう一度ため息をつく。
ひとまず、優に話を聞いてみれば良いか。
そう思い、私は二階に上がってインターフォンを鳴らす。
ピンポーン♪
軽やかなメロディが寂れたアパートに響く。
しかし、誰も出てこない。
それに戸惑いつつ、さらに何度かインターフォンを鳴らしていた時だった。
「うるさいなぁ……」
背後から聴こえた声に、私は慌てて振り返る。
見ると、そこには金髪のお姉さんが一人立っていた。
「あ、えっと……」
「あれ、その制服……ここに住んでる子と同じ学校?」
「え、あの……」
「すっごい男の子みたいな子。でも最近の子にしては珍しく、優しくて挨拶も出来て、すごい良い子でさぁ。今朝もちょうど出会った時に元気に挨拶してくれて」
その言葉に、私は「そうなんですか……」と返す。
こんな雑談してる場合じゃないのに……そう思っていた時、彼女は顎に手を当てて「そういえば……」と呟く。
「今日はなんか、駅の場所聞かれたなぁ」
「駅……ですか……?」
私の問いに、彼女は頷く。
「理由を聞いたら笑顔ではぐらかされたけどね。まぁ、若い内はそういう時もあるかなぁって思って」
「……そういうもの、なんですか?」
「さぁね。まぁ、あの子を探してるなら、駅とかだと思うよ?」
「……分かりました。ありがとうございます」
私はそう言いつつ頭を下げると、お姉さんは「良いよ良いよ」と言って軽く手を振る。
駅、か……優、なんでそんな場所に……。
そう思いながら道路に出て歩道をトボトボ歩いていた時、前からクラクションを鳴らされた。
「へ……?」
顔を上げると同時に、車は私の真横で止まる。
やがて窓がゆっくり開き、中からお姉ちゃんが顔を出す。
「お姉ちゃんっ……」
「暗い顔してるね。乗りなよ。……話聞くよ?」
そう言って明るく笑うお姉ちゃんに、私は、自分の顔が綻ぶのが分かった。
「へぇ……優ちゃんが行方不明……」
「駅に行ったとは聞いたけど、それ以外は全然情報無しで……どうすれば良いのかな」
そう呟いて鞄を抱きしめた時、頭を優しく撫でられる。
見ると、前を向いたままのお姉ちゃんが、私の頭を撫でていた。
「そう悩むなって。……アンタ等二人はすでに深い愛で結ばれてるんだから。たまには直感を信じてみれば?」
「そんな適当な……! 間違ってたら、私……!」
「……自分達を結ぶ愛情を、たまには信じてみれば良いじゃない。大丈夫。泪ならできるよ」
「お姉ちゃん……」
私はそう呟きつつ、俯く。
……私が優なら、どこに行くだろう……。
電車まで使って、この街から逃げて行くとするなら、それは……―――。




