第5-2 逃げない
翌日。早く起きた私は、すぐに料理を始めた。
優に気持ちを伝えるのに、言葉じゃ足りないって思った。
そして、今の私が確実に優を喜ばせてあげられることは、彼女の昼食を作ってあげることだと思った。
……それくらいしか、私にできることなんて無いから。
「出来上がりっ」
綺麗に盛り付けられた弁当を見て、私は息をつく。
一人分だけ作ると色々材料が勿体ないので、ついでに家族全員分も作ってみたけど……。
「あれぇ~? 何してんの?」
その時、お姉ちゃんが横から覗き込んで来た。
突然の登場に私は「わッ!?」と声をあげ、尻餅をつきそうになる。
すると、お姉ちゃんは私の腕を掴んで転ばないようにしてくれる。
なんとか立て直した私は息をつき、弁当を見る。
「優に、お弁当作ってあげようと思って……ついでに、家族皆にも」
「へぇ~。じゃあ今日のお昼ご飯は泪が作った弁当なのかぁ……」
目を輝かせながら言うお姉ちゃんに、私は「だったら何なの」と苦笑する。
すると、お姉ちゃんは「友達に自慢する」と言って、余っていた玉子焼きを一切れ取って口に含んだ。
「あ、ちょっと!」
「どーせ余ってたんでしょ? だったら一個くらい良いじゃん」
「そりゃ余ってたけど……」
悪びれる素振りすら見せずに言うお姉ちゃんに、私は少しだけ笑った。
まぁ、良いか。たまにはこういうのも。
「……逃げるなよ」
ポツリと、お姉ちゃんはそう言いながら、口の端に付いた玉子焼きの欠片を指で拭った。
それに首を傾げていると、お姉ちゃんはムッとした表情で私を見た。
「私の告白断ってまで選んだ相手でしょ? だったら、ちゃんと向き合って、自分の気持ちぶつけなよ?」
「告白じゃないでしょ……あと、それくらい、分かってる。……そのために弁当、作ったんだから……」
私はそう呟きながら、優のために作った弁当を手に取った。
これが私にできる一生懸命だから。
私の気持ちを、優に伝えるんだ。
「―――――――…………な……」
その時、お姉ちゃんが何か呟いた。
私はそれに顔を上げる。
「お姉ちゃん。何か言った?」
「うん? あぁいや。なんでもない。それじゃあ弁当作ってもらったお礼に、朝ご飯は私が作ってあげますかね」
そう言いながら腕を回すお姉ちゃんに苦笑しつつ、私は自分と優の弁当を持って、一度部屋に戻った。
小さい袋にしまいながら、私は、自分の顔が緩むのが分かった。
とりあえず、喜んでもらえたら良いなぁ……。
私の弁当を食べて笑顔になる優を想像して、私は柄にもなくにやけてしまった。
しかし、その日、優は学校に来なかった。




