第4-12 気持ち
「それからは……―――」
「もう良い分かったッ!」
まだ話を続けようとする優を、私は慌てて遮った。
顔が熱い。なんていうか、最初はすごく酷い話みたいだったけど、転校してからは単純に私のことをずっと好きだったみたいな、そんな話ばかりで……。
これ以上話されると心臓が持たないと思ったから、つい、遮ってしまった。
「……まぁ、そういうことがあって、今の私がいるの。……泪のおかげで、大分『仮面』も無くなってきたんだ」
恥ずかしそうに笑いながら、優は言う。
しばらくポカンとしていると、彼女は真面目な顔になって、私との距離を詰めてきた。
「わ……」
突然のことだったから、私はつい固まる。
すると、優は私の体を引き寄せて、抱きしめた。
「っ……」
「気持ち悪いでしょ? 母親に依存しすぎて、自分で演技してるだけなのに仮面とか言っちゃって。私だって自覚してるよ。……でもね、泪のことが好きなの。泪のことが、好きで好きでたまらないの」
そう言って、さらに強く私を抱きしめた。
私はそれに何も答えることが出来なくて、ただ彼女に身を委ねることしかできなかった。
「……ごめん……耐えきれなかった」
やがて、そう言って優は私の体を離した。
私はそれに少しふらつきつつ、彼女の顔を見た。
優は微笑んでいたが、その笑顔はとても悲しそうだった。
「……作り笑い、私の前じゃできないんだね。本当に」
「うん……まだ無意識にやっちゃうんだけど、泪の前だと、感情が面に出てきちゃって」
「……今の感情は?」
「……泪が離れていきそうで、怖い」
その言葉に、私は自分の胸が痛くなるのが分かった。
でも、私には彼女を励ます言葉が出てこなくて、目をそらしてしまった。
「……ごめん。色々、ちょっと……混乱してる……」
「……だよね……」
「うん……考える時間を貰っても良いかな?」
私がそう聞いてみると、優は少し驚いたように目を丸くしてから、フッと笑った。
「待つよ。……ずっと待つ」
「……ありがとう」
私はそう答え、窓の外を見た。
真っ暗。スマホで時間を見ると、すでに夜の十時を回っていた。
泊まるという選択肢もあるかもしれないが、今の空気のまま一晩共に過ごすほど、私の胃は丈夫じゃない。
「それじゃあ、今日は帰るね。……またね」
「……うん」
優はぎこちなく笑い、手を振った。
私はそれに軽く手を振り返し、アパートを後にした。




