表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第四章:偽りの向こうに咲く百合
44/92

第4-10 楽しみ

 泪の匂いはすごく良い匂いで、彼女の体は柔らかくて……。

 初めて触れた彼女の体は、すごく、愛おしかった。

 とはいえ、風邪の熱のせいで朦朧としていた意識はそのまま途中で潰えて、あっさり私は眠ってしまった。


 次に目を覚ましたら、そこには泪がいてくれた。

 どれくらい眠ってしまっていたのかは分からない。

 でも、泪がいたことがただただ嬉しくて、私は顔を綻ばせた。


「あ……影山さん、いてくれたんだ……」

「えっと……」


 私の言葉に、泪は困惑したような声を漏らす。

 それでもいい。今は、泪が近くにいてくれているから。

 そう思っていた時、ドアが開いて、母さんが入って来た。


 話を聞いた感じだと、どうやら泪が鞄とかを外に置いたままだったようで、母が置きっぱなしにするなと注意していた。

 しかしなんでまた置いたままに……と少し考えた所で、私は気付く。

 もしかして……私のせいか!?

 とはいえ、泪もそこまで気にしていない様子だったので、ひとまずなんでここまで来てくれたのかを改めて聞いてみた。

 すると、どうやら学校からの書類があったらしく、それと、ついでに服も返してくれるようだった。


 しかし、いざ服を入れたビニール袋を出した時、一緒に弁当箱のようなものが転がり出た。

 泪は隠すように慌てて拾うが、落ちた時の音とかで中身があるように感じた。

 学校からの帰りなら、弁当の中身はすでに空なハズなんだけど……。


「それ……弁当箱……? まだ中身ある気がするけど……」


 私がそう聞いてみると、泪は困ったような表情で固まる。

 え、まさかと思うけど何かヤバいものが詰まってたりするの?

 そう少し焦った時、彼女がようやく口を開いた。


「えっと……あの、その……茂光さん、いつも、ご飯少ないから……お礼を兼ねて、作って来たんだけど……」

「えっ!? 影山さんの手作り弁当!?」


 まさかの展開に、私は飛び起きる。

 その瞬間、頭が熱く、痛くなって、私はすぐにベッドに倒れ込む。

 いやいやそれどころじゃない。私はゆっくり起き上がり、泪を見つめた。


「ね、その手作り弁当、くれるんだよね?」

「えぇ……? た、食べたいなら……」

「食べる食べる!」


 食べないなんて選択肢はない。だって、好きな人の弁当だぞ?

 やがて箸と一緒に渡された弁当を開けてみると、そこにはすごく美味しそうな弁当があった。

 それに、私は「ふわぁ……」と声を漏らした。


「これ全部食べていいの!?」

「い、良いよ……茂光さんのために、作ったんだし……」

「いただきまーす!」


 泪の返事を聞くなり、私はすぐに食事を開始した。

 なんていうか、久しぶりに飯を食べたくらい感動した。

 いや、食事自体は毎日してるんだけど……普段食べているのは母がパート先から貰って来た余り物だとか、手料理でも質素なものばかりで、心の底から美味しいと思えるものがなかったのだ。

 おまけに好きな人が作ってくれたものだからか、余計に美味しく感じさせる。

 感想を述べようとした時、泪がスマホを見て何やら絶望しているのが目に入った。


「モグモグ……ん? どうしたの? 影山さん」

「あぁ、いや……姉さんから、電話がたくさん、来ていたみたい。そろそろ、帰らないと……」

「本当!? あ、じゃあ、この箱は……明日、絶対風邪治して、この箱洗って持って行くからね!」

「無理しなくても良いよ……」


 無理しなくて良いって……無理なんてしてないもん。

 私がついムスッとしてると、泪は少しだけ笑った。

 それに、私も笑って、箸を一度置く。


「でもすっごい美味しい! また作って!」

「……ありがとう」


 少しだけ嬉しそうに言う泪に、私も笑みを浮かべた。

 それから泪は帰り、私はしっかり弁当を完食した。

 明日、絶対に風邪を治して弁当箱を返すんだ。

 そう思ったら、なぜかすごく、明日が楽しみになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ