第4-9 崩壊
翌日。見事に風邪をこじらせた。
流石にあの豪雨の中ブラウス一枚はダメだったか……すぐに体拭いて着替えたから大丈夫かと思ったんだが……。
せめてシャワーを浴びておけば……いや、水道代とかが勿体ないな、それは。
でも病院代も勿体ないし、何より、病院に行くために母に午前中休ませてしまったことがかなり辛い。
これならシャワーを浴びた方がまだマシだった。
「それじゃあ母さんそろそろ仕事に行ってくるけど、一人で大丈夫?」
「ケホッ……大丈夫。薬飲んで大分楽になったし」
「そう……?」
心配そうに聞いてくる母に、私は「大丈夫、大丈夫」と笑っておく。
本当は結構辛い。頭痛いし、体中が熱いし、本当に風邪なのかと疑いたくなるレベル。
とはいえ、これ以上母に心配させるわけにはいかないので、お得意の仮面被りで誤魔化して彼女は仕事に行かせた。
一人になった部屋で、私は頭を押さえながらベッドで仰向けになる。
どれくらい経っただろうか。
薬の副作用か何かで数時間程度眠り、目が覚めて、少しぼんやりしていた時だった。
インターフォンが鳴ったのは。
「……? はぁい」
返事をしつつ扉を開いた時、私は固まった。
だって、そこにいたのは泪だったから。
「あ、影山さん……来てくれたんだ……」
「え、あ、えっと……」
「どうしたの? もしかしておみま……」
途中まで話していた時、体が揺らいだ。
熱と驚きから一気に頭に血が上って、なんか、視界が……。
意識が安定した時、私は部屋のベッドで寝ていた。
先ほどのことが夢だったのではと思ったが、まだ部屋に泪がいたので、恐らく私が倒れてしまったのだろう。
それだけ私の熱が酷かったのだろう。
ていうか、私を運ばせてしまったことに罪悪感が湧き上がって、すごく申し訳なくなってくる。
「影山さん……ありがとう、わざわざ……」
「え? あ、これ、くらい、当然だよ……人として……」
「そんなことないよ……ありがとう」
それはきっと、本心からの言葉だったと思う。
そんな私の言葉に、彼女は曖昧に笑った。
……可愛いなぁ。
彼女の顔を見ているだけで、風邪の症状が和らぐような感じがした。
しかしその時、彼女は突然私に背を向けて、部屋を出ようとしたのだ。
別に、彼女がここで帰ることは自然かもしれない。
もしかしたら、手紙を届けに来ただけで、すでにその手紙は置いてあるのかもしれないし。
「……やだ……」
なぜかは分からない。
気付いたら、私は彼女の服の裾を掴んで引き留めていた。
やだ……帰って欲しくない……。
……なんで? 分からない。
でも……私は……―――。
「……一人にしないで……」
そう呟いた瞬間、私の耳に、何かが割れるような音が聴こえた。
何か大事なものにヒビが入るような……不思議な音。
それはきっと……―――
「もう……一人は嫌だ……」
―――……私の仮面が割れる音。
泪を抱きしめながら、私は、自分の笑顔の仮面が崩れ落ちるのを、確かに感じた。




