第4-7 感情
私の隣の席であり、唯一人間に見えた少女の名前は、影山泪と言った。
性格は雛に似て、人見知りが激しくて、オドオドした感じの子。
正直、私はそういう少し大人しい子が好きなのだろうかと考えたが、そういうわけではなく、単純に、自分を偽っているかどうかの判断基準なのではないかと思う。
それこそ、派手系の子にも自分の素で話している子はいるかもしれないが、パッと見は怪しさ満点だし、イジメを受けて孤独を味わってからは、どうにもそういうタイプは苦手で……。
だから、私は派手系の子とはあまり関わらないようにして、泪にだけ集中的に話しかけるようにした。
とはいえ、泪は話すことが苦手なのか、無反応であることが多かった。
でも、彼女といるだけで充分楽しかった私は、自分から色々話すようにした。
と言っても、私の体験談などそこまで面白いものではないと思うが。
まぁ、彼女はほとんど聞き流しているようだったし、内容なんて関係無さそうだった。
そういえば、余談だが、食事関連で少しいいことがあった。
母が掛け持ちしているパート先の一つにかなり良心的な店長がいるらしく、母の家庭の事情を知ったその店長は、その日が賞味期限のお惣菜や弁当などを分けてくれるらしい。
それと母の稼ぎのおかげで、なんとか毎日三食は食べて行ける。
とはいえ、食事の量と品質はかなり下がったかな。特に昼食は酷い。菓子パン一個だ。
泪も、一緒に昼食を食べていて、かなり私の食事は毎回ガン見していたから。
基本的に上手くやっていっているつもりだった。
しかし、ある日を境に少しずつ、無視されるようになり始めた。
またか。それが、正直な感想だった。
なぜだろう。見た目だって目立って悪い部分があるわけでもないし、性格だって、他の人の前では上手く化けているつもりなのに。
まさか、全く知り合いのいないこの学校でまたイジメを受けるなんて、予想していなかった。
泪もその孤立化に気付いていたが、なぜか、自分と仲良くしたからとかどうとか、見当違いなことを言い始めた時は、笑いそうになってしまった。
そこで、私はとあることに気付いた。泪の前だと、僅かにだけど、本当の自分が出せそうな時があるのだ。
作り笑いだって少しぎこちなくなるし、返答だって、今までは誰にでも条件反射で出来ていたものが、じっくり考えないとできなくなったりする。
雛の時とは、少し違う。
元々、雛を特別視していたこと以外に、私にまともな恋愛経験などない。
いや、この日本という国では、女同士の恋愛もアブノーマルだから、まとも、ではないかもしれないが、もしアレを含まなければ参考にできる恋愛体験が無くなるので、細かいことは気にしない。
とにかく、雛の場合と泪の場合で違うのだ。
雛の前では、決して仮面が剥げることなど無かった。
でも、泪の前だと、たまに本当の私としての感情が出る時があるんだ。
雛のことだって好きだったハズ……でも、じゃあ、泪への感情は一体……何なんだろう?




