第3-7 ベッド
それから、晩ご飯まではまだ時間があるということで、ひとまず優を自室に案内した。
元々部屋ではスマホで動画を見たりする程度の私の部屋は至って平凡で、特に面白みのあるものでもない。
「どうぞ。……つまらない部屋だけど」
「つまらなくなんかないよ! わぁ、ここが泪の部屋かぁ……!」
別に置いてあるものは優の部屋とそんなに変わらないのに、やけにキラキラとした目で言う優。
部屋に入れるのは少し恥ずかしいけど、優のそんな無邪気な姿が見れただけでも、かなり貴重かもしれない。
そう思って頬が緩んだ時だった。
「ぁ……泪のベッド……」
その言葉に、私はビクッと肩を震わせた。
視線を向けると、私のベッドをジッと見ている優の姿があった。
別にごく普通なことなのに、好きな人、と、ベッド、というそれぞれの単語だけで、やけに緊張してしまう。
「えっと……優……」
「そういえば、私が風邪の時、一回抱きしめちゃった時あったよね。やっぱさぁ、風邪引いたら、メンタル弱くなっちゃうし」
そう言って照れたように頬を掻く優に、私は答えることができない。
私の反応に、優は微かに笑みを浮かべて、私の手を引いた。
「えっ……!」
驚いた時には、私は優に抱きしめられ、優は背中からベッドに飛び込んでいた。
バフッという音が響き、僅かに掛け布団が乱れる。
慌てて体を起こそうとするが、強く抱きしめられてるせいで、できない。
「ちょ、優……!」
「あはは……泪の匂いがする……」
優は嬉しそうにそう言って、私をさらに強く抱きしめた。
私は心臓がけたたましい音を耳元で奏でるのを聴きながら、慌てて優から離れようとする。
でも、優に抱きしめられてるとなんだか安心してしまい、最終的には、彼女に身を委ねてしまうのだが。
「んぅ……」
「……なんか、恋人同士みたいだよね……これ……」
その言葉に、私は自分の顔が熱くなるのを感じた。
抱きしめられてて、私と顔は現在優の肩に乗せているような状態なので、顔色は見られない。
同じく、優の顔すら見えないので、どんな表情でそれを言っているのかも分からないのだが。
「そう……だね……」
「ねぇ、泪……?」
名前を呼ばれ、私は、「何?」と聞き返した。
すると、耳元で微かに彼女が微笑み、そして……―――
「泪、優ちゃん、夕食出来たって~!」
―――……そこで、お姉ちゃんがドア越しにそう呼んだ。
それに、私は我に返り、慌てて体を起こした。
すると、そこでは、なぜか耳まで顔を真っ赤にした優が、私のベッドで仰向けに寝転んでいた。
「なんで、そんな顔……」
「……お姉ちゃん待たせたらダメだし、行こうか……」
私がそう促すと、優は少し悲しそうな表情をした後で、「うん」とだけ言って、頷いた。
しばらく優は恥ずかしそうに視線をずらしていた後で、私の袖を、クイッと引っ張った。
「何……?」
「……いつか、続きを言うから」
その言葉に、私は、その言葉の意味を理解しようとしたが、正直よく分からなかった。
いつか、って……今言えば良いのに……。
まぁ、でも、優がそう言うなら……。
「うん。待ってる」
私の返答に、優は嬉しそうな笑みを浮かべた。




